研究課題/領域番号 |
20K04560
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
立岡 浩一 静岡大学, 工学部, 教授 (40197380)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | シリサイド / 14族元素 / ナノシート / 化学気相成長法 / トポケミカル反応 / ナノ構造制御 / 熱電素子 / 発光素子 |
研究実績の概要 |
本研究は、ナノシートの積層構造からなるナノシート束を作製し、さらにそのモルフォロジー及び構造制御を行い、様々な化合物からなる新規のナノシート束を作製するプロセスを開発する事を目的とする。 2年目には、これまでに作製したMg2Si系及びMnSi1.7系ナノシート束の構造評価とともに、結晶品質と均質性の向上、構造改変を行った。MnSi1.7をMnCl2溶融塩にて熱処理を施す事により、気相法に比べて組成分布の均一なナノシート束を得た。そのナノシート束では、ある結晶方位関係を有する異なる方向を向いたドメインが層状に積層した構造が認められた。Mg2Si1-xGexについては、同様に液相法を用いる事によりGe分布の均一な混晶ナノシート束を得た。これらナノシート束の液相法による組成均一性の向上メカニズムを明らかにした。Mg2Si系ナノシート束の作製においてはMgに加えAl, Ga, Inなどの低融点金属溶媒を用いナノシート束を作製し、その微細構造を評価した。また10^17~10^20/cm3の範囲でキャリア密度が変化した。 CaGe2をMgCl2/Mgソースとともに100~200度程度の温度にて熱処理を施す事によりCa原子を脱離しGeナノシート束を作製した。Ge-Hの生成も認められた。CaSi2結晶を大気雰囲気中にてMnCl2とともに熱処理を施す事によりシート間の空間が少ないより緻密なナノシート束が得られた。また同様にCaSi2を大気雰囲気中にてFe/NaCl2粉末とともに熱処理を施すことによりナノシートの他、粒子状の鉄シリサイド、鉄シリサイドデンドライトとが生成した。 CaSi2結晶を大気雰囲気中にてMgCl2とともに熱処理を施す事によりMg2SiO4ナノシート束に加えMgOナノシートの生成が見られた。Mg2SiO4/MgOからは5.1 eV付近に強いカソードルミネッセンスが観測された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
従来のSiナノシート束の作製に加え、元素半導体Geナノシート束、また化学量論的組成を有する化合物Mg2Siナノシート束、MnSi1.7ナノシート束の作製へと展開してきた。また混晶半導体であるMg2Si1-xGexのナノシート束が作製可能である事を示し、その組成分布の改善を行なった。Mg2Si, Mg2Si1-xGexナノシート束及びMnSi1.7ナノシート束については、ナノ構造の評価と量子効果発現の検証を中心に、引き続き諸物性の評価を続けている。さらに電気特性などの特性改善のための構造改変を続けている。またシリサイド(Mg2Si)ナノシート束からシリケート(Mg2SiO4)ナノシート束、さらに酸化物(MgO)ナノシート束の作製へと展開しナノシート束の材料の幅を広げてきた。酸化物ナノシート束が作製された事は、単独或いはシリサイド系ナノシート束との融合により新しい展開が見込まれる。 ナノシート束の作製方法については、液相法を用いる事によりナノシート束の構造改善がみられた。また組成分布の均一性の向上メカニズムを明らかにした等、ナノシート束作製の展開に大きな進展が見られた。また低融点金属を添加した熱処理による試料作製方法は,ナノ構造の構造改変の方法のひとつとして期待できる。さらに大気雰囲気中など一定の条件下において、生成物のモルフォロジーを大きく変化させることが出来ることが分かり、これよりナノ構造の緻密化、より複雑なナノ構造の構築が期待できる。以上のように今後のより多様な化合物ナノシート束作製における出発原料と反応経路、生成相の選択についての知見を得る事が出来た。これらの成果を従来の気相法を用いたナノシート束作製方法とあわせ、さらに多様なナノシート束を創生し、ナノシート束の形態、形状を造り分け表面状態、電子状態を制御する方法を確立していく。
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今後の研究の推進方策 |
Mg2Si、Mg2Si1-xGexナノシート束及びMnSi1.7ナノシート束については引き続き物性の評価と特性改善のための構造改変を続けていく。Mg2Siナノシート束については液相法によるMg過剰添加と不純物添加を併用しキャリア密度制御を試みる。また低融点金属溶媒の使用によりナノシート表面の導電性改善を試みる。MgCl2, Mg2Si 及びMg2Si1-xGexナノシート束特有に見られるナノ構造の生成メカニズムを明らかにする。さらに電気伝導特性及び光学物性を評価し、量子効果発現を検証する。MnSi1.7ナノシート束については、大気雰囲気中にて作製したMnCl2溶融塩に不純物元素或いはその塩化物を添加する事によりMnSi1.7への不純物添加を試みる。b-FeSi2ナノシート束の作製においては、使用するテンプレート、反応経路を検討する。引き続きMg2Si-Mg2SiO4-MgO系ナノシート束の発光強度の改善と発光エネルギー制御を試みる。同様に鉄系においてもシリサイド-シリケート-酸化物系ナノシート束の作製と応用についての探索を行う。CrSi2等他のシリサイドナノシート束の作製と他の層状結晶をテンプレートとしたナノシート束の作製も探索的に行う。従来の気相でのナノシート束作製方法と溶融塩及び低融点金属を用いた液相法による作製法とあわせ多様なナノシート束を創生し、ナノシート束の形態,形状を造り分け表面状態,電子状態を制御する方法を確立する。現在,これらナノシート束は、大きいもので数十マイクロメートルの粉末状であるが焼結プロセスなしに数ミリメートル程度の大きさにする技術を確立する。ナノシート束の諸物性を検証し、ナノシートそれぞれの構造、ナノシート束のモルフォロジーが諸物性に与える影響を明らかにする。作製したナノシート束の塊(バルク)を熱電発電に応用し、熱電変換効率を評価する。
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