研究課題/領域番号 |
20K04563
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
甲斐 綾子 山口大学, 大学院創成科学研究科, 准教授 (50253167)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ESR / FeドープGaN / 点欠陥 |
研究実績の概要 |
(1)ESRを用いたFe3+濃度の定量方法を確立し、FeドープGaN中のGaサイトに置換したFe3+とFe2+濃度を明らかにする。:印加磁場と結晶方位との角度調整方法、各信号の積分磁場範囲、試料サイズ計測方法を検討し、測定者による差異が生じない客観的でより高精度な測定方法を確定した。この条件で測定した本研究の全試料でFe3+はすべてGaN中のGaサイトに置換していることがわかった。スピンマーカーについては、GaN中のFe3+信号と重ならず、計測するFe3+濃度範囲に調整可能なスピン量を有し、室温で安定、構造を持たない単純なESR信号を有する材料の探索と選定を行った。具体的には、尿素と塩化アルミニウム六水和物の混合物の熱分解反応によって生成した炭素含有AlN中のESR信号に着目し、g値、線幅等のESRパラメーターが本研究の目的に合うことを明らかにした。今後、このESR信号を用いたスピンマーカーについて特許取得を行う予定である。 (2)熱アニーリングと光照射実験、及び第一原理計算から、窒素空孔とFe3+の複合欠陥形成の可能性を明らかにする。:X線照射処理では、Fe3+濃度は減少し、翌日も回復しなかったことから、過剰に含まれているFe3+は電子捕獲中心として機能することがわかった。熱アニール処理では、雰囲気の違いによって、GaN中のFe3+濃度は異なる変化を示した。その結果、窒素中では850℃で処理してもFe3+による電子捕獲はわずかですぐに回復すること、大気中処理ではFe2+の酸化またはFe4+の電子捕獲によってFe3+濃度が増加すること、真空中では窒素空孔と考えられる欠陥が新たに形成されるとともに、Fe3+による電子捕獲が確認され翌日も回復しないことがわかった。真空中処理におけるFe3+の減少は、窒素空孔との関連性を示唆しており、引き続き低濃度ドープ試料での解析が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)ESRを用いたFe3+濃度の定量方法については、最も重要で困難なスピンを計測するマーカー材料の選定ができた。さらにこの材料を使用した特許取得も準備中である。また、スピン計測するためのESR測定条件の検討も終了し、試料中のFe3+がすべてGaN中のGaサイトに置換していることがESRスペクトルから明らかになったので、これらの項目については計画以上と言える。一方、マーカー材料中のESR信号の定量精度はまだ低く、検討が必要である。 (2)X線照射実験では、過剰のFe3+は電子捕獲機能を持っていることが明らかになるなど、計画に沿った成果を得ることができた。熱アニール処理実験では、雰囲気の違いによりFe3+の電子捕獲効果が異なることが明らかになった。特に真空中処理では窒素空孔と考えられる欠陥を観測し、これがFe3+の電子捕獲に影響を与えている可能性が示唆されるなど一定の成果を得た。しかしながら、光照射実験と第一原理計算については、準備段階であり、成果を上げることができていないが、計画では次年度も引き続き行うこととなっており、大きな遅れは無い。 以上のように、準備段階で留まっている内容もあるが、順調または計画以上に進んでいる内容がほとんどであるため、総合的には「おおむね順調」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度の成果を元に今後は以下の研究を推進する。 (1)GaN中Fe3+濃度の定量:①C含有AlN粉末中のESR信号の定量をCuSO4・5H2OとDPPHを使って行う。②C含有AlN粉末をマーカー形状にする。③作製したマーカーとGaN試料を同時にESR測定してFe3+とFe2+含有量の評価を行う。 (2)窒素空孔の活性化エネルギー評価:①真空中熱処理後のFeドープGaNに波長を変えた光を照射しながらESR測定を行う。②研究計画では第一原理計算を行う予定であるが、もし着手できない場合は、ESRを用いて、窒素空孔信号の熱アニール特性を調べFe3+挙動との関連性を調べる。 (3)Fe3+、及び窒素空孔が電気抵抗率に及ぼす効果:①真空中熱アニール条件を変えて窒素空孔生成量が異なる試料を調整する。②窒素空孔量に対するFe3+濃度、及び電気抵抗率の関係性を調べる。③熱アニール処理によるFe3+濃度と電気抵抗率の変化を調べて関連性を明らかにする。 (4)窒素空孔とFe3+の複合欠陥形成の可能性:WIEN2kを用いて、窒素空孔とFe3+の置換サイトを変えたGaNセルの生成エネルギー、バンド構造、状態密度の第一原理計算を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は、新型コロナ感染予防により、参加予定していた学会がすべてオンラインとなり、旅費を使用する必要が無くなったため、約150千円の次年度使用額が生じた。 2021年度は、2020年度の進捗状況に合わせて、赤外線加熱装置(2020年度助成金で購入)に装備するための「電気抵抗測定ユニット」900千円を新たに購入する予定である。次年度使用額と翌年度分と合わせた助成金は、この物品の購入、消耗品費(ESR用器具、電気部品、加熱装置用器具、ガス類)、国内学会旅費、論文投稿料に使用する。
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