SiC半導体を用いたnチャネルInsulated Gate Bipolar Transistor (IGBT)のp型4H-SiC基板(コレクタ)の低抵抗率化のためには、アクセプタであるAlを高濃度添加する必要がある。そこで、Alを高濃度添加した場合の伝導機構を調べた。低温領域での電気伝導機構はホッピング伝導機構であり、Al濃度の増加に伴って、最近接ホッピング(NNH)伝導から可変領域ホッピング(VRH)伝導に変化することがわかった。XRD(X-ray diffraction)測定を行い、XDRの半値幅とAl濃度との依存性から、Al濃度が増加するのに伴い、半値幅が増加することがわかった。つまり、Al濃度と共に、4H-SiC結晶の格子間隔に場所的な揺らぎが大きくなることを明らかにした。このことから、4H-SiC結晶の周期性に乱れが生じ、禁制帯中に局在準位が形成され、フェルミ準位付近に形成された局在準位を伝導するVRH伝導が現れるようになったことがわかった。 そして、Alを添加し、VRH伝導が室温近くまで現れるようになると抵抗率が減少しないことがわかった。 Al添加4H-SiCはp型半導体であるが、低温領域でのNNH伝導やVRH伝導のようなホッピング伝導ではホール係数が負(つまり、n型の性質を表すよう)になることを実験的に明らかにした。そこで、NNH伝導とVRH伝導に適用できる、ホッピング伝導でのホール係数の符号に関する一般的な物理モデルを提案した。電界によるホッピング伝導は電子で考えても正孔で考えてもよいが、磁場により力を受けた荷電粒子が移動する先の大小関係により、磁場によりホッピングする荷電粒子が電子か正孔かが決まり、ホール係数の符号が決まることを示した。 約200 K以下のバンド伝導領域においても、ホール係数が負になることを実験的に明らかにし、このことは今後の研究課題となった。
|