研究課題
本研究の目的は走査型プローブ顕微鏡の微視的な物性評価技術により強誘電高分子膜の分極反転や相転移のメカニズムを解明することである.本年度はカンチレバーの接触共振により測定精度を向上させた.これにより従来のPFMでは信号が小さく分域構造が把握できない未分極領域においても分域構造を把握できる可能性を得た.さらに接触共振型PFMを用いて強誘電高分子P(VDF/TrFE)の微少領域における分極度合を観察した.温度を増加させながらその場の環境下で観察することでその高分子の脱分極度合を解析した結果、粒子毎に異なる温度で脱分極が生じていることがわかった.観測領域における脱分極領域の割合分布を解析した結果、結晶化温度付近からある温度幅を持って脱分極領域が増えていくことがわかった.本結果は脱分極電流等の巨視的な測定結果を概ね一致する.これらのことから,相転移は粒子毎に生じ,粒子の集合体は結晶化温度付近で温度幅を持って統計的に相転移していることが考えられる.
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的実現のため、測定精度向上による分域構造の把握、脱分極現象の観察による相転移メカニズムの把握、反転電圧強度時間変化による分極反転メカニズムの把握、以上三ステップに分けて研究を進める計画であった.これに対して本年度までにステップ2の途中まで進展している.以上の理由からおおむね順調に進展しているとした.
2021年度は分極反転の時間依存性を測定することによりそのメカニズムを明らかにする.分極反転の時間過程は(I)核発生・縦貫通過程及び(II)横広がり過程の二つに分けられると考えられる.過程(I)は数nsの時間に反転する核が発生し,数十nsの時間で厚さ方向に反転領域が貫通すると言われている.数百nsの時間から過程(II)に移行し,分極壁が横へ移動して広がっていく.分極反転の観測では,圧電性を示すパラメータが重要であり,共振特性から算出した振幅と位相差に着目する.その具体的な研究方法は,高周波パルスを膜に印加し膜を部分的に分極反転させる.その様子を提案するプローブ顕微技術により観察する.評価の際,過程(I)あるいは(II)において圧電d31効果あるいはd33効果により表面あるいは膜厚方向に振動する.この振動の測定にはカンチレバーのねじりあるいはたわみ共振を用いる.反転域の観察は振動の位相がおおむね同相である領域で確認できる.パルス電圧・電極間間隔及びパルス時間を制御することで,電界強度及び印加時間を変化させて系統的なデータを得られるかを確かめる.これらの過程を観測し,理論モデルと対応させることで,分極反転メカニズムを明らかにするとともに,反転しやすい核はどのような場所に存在するのか,どのような部分が反転を妨げているのかを明らかにする.
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静電気学会誌
巻: 45 ページ: 28-33