液晶を用いたNRDガイド型テラヘルツ波移相器を実現するため、本研究では配向マイクロファイバーとネマティック液晶を複合化した素子を利用することとした。最初にマイクロファイバー単体の テラヘルツ波帯における透過特性や誘電特性を評価するため、複合素子で使用したポリアクリロニトリルの配向マイクロファイバーについてテラヘルツ波分光器を用いて特性評価を行った。屈折率特性について100GHz~1THzまで1.1とほぼ一定の値を示しており、ファイバー主軸方向と直交方向での異方性は小さく0.05程度であることが確認できた。また、損失も液晶と比べ小さく液晶との複合材料として適切な材料であることが確認できた。 NRDガイド型のテラヘルツ波の移相器を当初350GHzで実現したが、第5世代通信の次の世代(Beyond 5G)の通信システムではテラヘルツ波としては低周波側の100GHz帯におけるデバイスの実現が重要であることから、マイクロファイバー/液晶複合素子の厚さを200μmから600μmに増加させ、100GHzで動作する移相器を実現し、応答時間が200ms程度と350GHz帯の移相器と同等の応答時間を実現できることを確認した。 この100GHzで動作する移相器を用いてフェーズドアレーアンテナを実現するため、分配器の設計を行った。素子間隔を3mm及び2mmとし導波管から入力されたテラヘルツ波を4素子に分配し、液晶装荷移相器を経て誘電体アンテナから空中に放射されるフェーズドアレーアンテナを作製した。アンテナ毎の初期位相を調整して各移相器の初期位相を変化させたところ、素子間隔が3mmのデバイスで±28度、2mmのデバイスで±41度の範囲で放射方向を掃引できることを確認した。また、その際の応答時間は最大280msであり、マイクロファイバーとの複合化による応答時間の短縮効果が確認できた。
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