研究課題/領域番号 |
20K04575
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
岡 寿樹 北里大学, 理学部, 教授 (00508806)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | エネルギー移動 / 励起子 / ナノ構造体 |
研究実績の概要 |
光励起エネルギー移動は,近接した粒子間においてドナーにより吸収された光エネルギーがアクセプターへと移動する現象であり,特に光合成においては重要な素過程の一つとして知られている.自然界の光合成細菌における集光アンテナ(LH)では,LHを構成する色素分子が環状に並んだ円環構造を形成することで,高速なエネルギー移動を実現していることが知られている.人工ナノ構造を用いたナノ光デバイスへの応用においても,上述の自然界における光合成系を模倣することが光速エネルギー移動を実現する最も効率的な方法の一つと考えられる.しかし,最近の自然光合成系の研究から,構造的なゆらぎ(静的な構造ゆらぎ)が高速化を引き起こす要因である可能性も議論されている.このような構造的なゆらぎをナノ構造体で模倣するのは困難であり,デバイス応用を難しくするひとつの要因となっている. 当該年度では,光合成集光アンテナの円環構造を量子ナノ構造体で模倣した量子ナノアンテナ開発を目的として,自然界の光合成系が採用していると考えられる「構造的なゆらぎ」を全く必要としない高速光励起エネルギー移動のメカニズムが円環構造に存在することを理論的に明らかにした.具体的には,LHを構成するナノ構造体に形成される励起子準位が,各ナノ構造間において,ドナーーアクセプター間相互作用によるバンド構造を形成し,「光吸収に寄与するエネルギー準位」と「高速エネルギーに寄与するエネルギー準位」とに上手く機能分担できることを明らかにした.更にドナーーアクセプター間を励起子が蛇行しながら円環構造を高速に伝搬する可能性を示した.これらの結果は量子準位を上手く制御すれば,デバイス応用を阻んでいる構造ゆらぎを介さなくても,デバイスデザインによりエネルギー移動の高速化が可能であることを示す重要な結果といえる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画では,当該年度の目標は高速エネルギー移動を実現する量子ナノ構造の選定,及びデバイスデザインのパラメータ解析を行い,最適パラメータを評価することであった. 昨年度の研究代表者の異動とコロナ禍による緊急事態宣言により,研究機器の導入,搬送が遅れたため研究着手が大幅に遅れていたが,当該年度では,量子ナノ構造がエネルギー移動の高速化を実現するための新しいメカニズムとデバイス指標を与えることができた.最終年度では,計画通り当該年度で得られた結果の多体ネットワーク系への拡張を目指す.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度では当初の研究計画に従い,多体間量子ナノアンテナにおけるエネルギー移動への理論拡張,および具体的なデバイス選定を並行して行う.現在想定しているのは量子準位の解析及び励起子の光物性がよく研究されている量子ドット系であり,構築した理論を基にエネルギー移動ダイナミクスの解析を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度では,経費として計上していた大学院生の研究補助員の採用期間が,コロナ禍のために予定より短くなり,当初予定していた使用額よりも少額になった.また成果発表として計上していた国際学会参加のための旅費の執行も行えなかった.次年度では大学院生の研究補助員を採用するため繰り越した経費,成果発表のための旅費として執行する予定である.また,当該年度で計画していた論文投稿費として計上した経費に関しても,投稿中の論文の年度内の採択に間に合わなかったため,経費として執行できなかった.これに関しても,次年度以降に繰り越し執行する予定である.
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