研究課題
光励起エネルギー移動は近接した粒子間においてドナーにより吸収された光エネルギーがアクセプターへと移動する現象であり,特に光合成においては重要な素過程の一つとして知られている.自然界の光合成細菌における集光アンテナ(LH)では,LHを構成する色素分子が環状に並んだ円環構造を形成することで,高速なエネルギー移動を実現していることが知られている.人工ナノ構造を用いたナノ光デバイスへの応用においても,上述の自然界における光合成系を模倣することが高速エネルギー移動を実現する最も効率的な方法の一つと考えられる.しかし,最近の自然光合成系の研究から,構造的なゆらぎ(静的な構造ゆらぎ)が高速化を引き起こす要因である可能性も議論されている.このような構造的なゆらぎをナノ構造体で模倣するのは困難であり,デバイス応用を難しくするひとつの要因となっている.最終年度では,前年度に示した「構造的なゆらぎ」を全く必要としない高速光励起エネルギー移動理論に対して解析を行い,高効率化を実現する系特有なLH間距離が存在すること明らかにした.具体的には,常温においてエネルギー移動を最も効率良くするLH間最適距離が存在することを明らかにした.これは,前年度までにLHに形成される励起子準位において「光吸収に寄与するエネルギー準位」と「高速エネルギーに寄与するエネルギー準位」とに上手く機能分担できることを明らかにしたが,更にこのエネルギー準位間のエネルギー差がほぼ常温における熱エネルギーと同程度になるようなLH間距離を設定する必要があることに対応している.これらの結果は,LH間距離を最適化すれば,デバイス応用を阻んでいる構造ゆらぎを介さなくても,デバイスデザインにより量子準位の機能分離を上手く利用したエネルギー移動の高速化が可能であることを示唆しており,本研究課題の目的であるデバイス設計指標を与えた重要な結果である.
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physica status solidi (b)
巻: 259 ページ: 2200206~2200206
10.1002/pssb.202200206