研究課題/領域番号 |
20K04585
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研究機関 | 徳山工業高等専門学校 |
研究代表者 |
室谷 英彰 徳山工業高等専門学校, 情報電子工学科, 准教授 (20612906)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 励起子 / 誘導放出 / 内部量子効率 / レート方程式 |
研究実績の概要 |
本研究では,半導体中の電子と正孔がクーロン相互作用によって互に束縛された状態である励起子の光学遷移過程に注目し,強い励起子効果が期待できる窒化物半導体において励起子の発光再結合過程を動作原理とした発光デバイスの実現に向けた研究を進めている。励起子効果を利用した発光デバイスの設計指針を示すことを具体的な目的としている。現在までに得られた研究実績は以下の通りである。 AlGaN系UV-C量子井戸構造において高温光励起誘導放出測定を行い、誘導放出機構の温度依存性と安定性を評価した。光励起誘導放出は高温(550 K)においても明瞭に観測され、450 Kから500 Kの間で光学利得生成機構が励起子が関与したものから電子-正孔プラズマによるものへと変化することを確認した。光学利得生成機構の安定性を評価するために特性を温度を導出した結果、室温付近において310~325 Kと見積もられ,これまでにAlGaN系UV-Aレーザーダイオードで報告されている値よりも2倍以上高い値が得られた。これは、光学利得生成機構の熱的安定性が非常に高いことを示している。さらに、光励起レーザー測定を行い,室温において縦共振器モードによる微細構造伴うスペクトル観測し、励起子系光学利得生成機構による光励起レーザー発振を確認した。 高品質なAlNテンプレート上に作製されたAlGaN系量子井戸構造において内部量子効率を評価し、約90%という非常に高い値が得られた。効率曲線の温度依存性から、400 Kにおいても強励起下では非輻射再結合中心が完全に充填されることを明らかにした。さらに、前年度までに提案した励起子レート方程式モデルによって解析した結果、400 K付近において励起子の輻射再結合過程が非輻射再結合過程よりも優勢であることを確認した。 以上のことから、励起子効果を利用した発光デバイスの実現の可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
AlGaN系量子井戸構造において励起子が関与した誘導放出機構の熱的安定性を定量的に評価し、発光デバイスの動作原理として使用する上で十分な安定性を有することが確認できた。また、励起子が関与した誘導放出の特性が明らかになってきており、今後、具体的な機構の解明につなげることができると考えられる。さらに、高品質AlNテンプレート上に作製されたAlGaN系量子井戸構造において、励起子の高い輻射再結合確率を反映した非常に高い内部量子効率が得られた。これらの成果はおおむね当初の計画通りであり、総合的におおむ順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに明らかにしてきた励起子が関与した誘導放出の特性に基づき、具体的な光学利得生成機構の解明を進める。また、研究最終年度であるため,これまでの研究成果を総括し,窒化物半導体による励起子効果光デバイスの構造設計のための指針を明らかにする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の流行により、国内学会および国際会議がオンライン発表形式となり、研究打ち合わせもオンライン会議で実施したため、計画段階で計上していた旅費相当分が次年度使用額となった。一方で、有機溶媒や光学部品類、電子部品類などの消耗品の利用が当初計画よりも増加しているため、次年度使用額は消耗品費として使用する計画である。
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