研究課題
本研究では,半導体中の電子と正孔がクーロン相互作用によって互に束縛された状態である励起子の光学遷移過程に注目し,強い励起子効果が期待できる窒化物半導体において励起子の発光再結合過程を動作原理とした発光デバイスの実現に向けた研究を進めている。励起子効果を利用した発光デバイスの設計指針を示すことを具体的な目的としている。現在までに得られた研究実績は以下の通りである。UV-C領域で発光するAlGaN系量子井戸構造において,550 Kという高温領域においても光励起誘導放出が観測された。さらに,450~500 Kの間で誘導放出機構が変化することを確認した。500 K以上では,誘導放出は電子-正孔プラズマによるものであるのに対し,450 K以下では励起子が関与した機構であることが示唆された。また,低温領域において誘導放出特性の励起波長依存性を評価し,励起子が誘導放出に関与していることを明らかにした。加えて,室温において光励起レーザー発振測定を行い,ファブリペロー共振器の縦共振器モードを反映した微細構造を伴う発振スペクトルを観測した。このことは,室温において励起子が関与した誘導放出機構による光励起レーザー発振が実現できたことを示している。高品質なAlNテンプレート上に作製されたAlGaN系量子井戸構造において内部量子効率90%という非常に高い値が得られた。効率曲線の温度依存性から,400 Kにおいても強励起下では非輻射再結合中心が完全に充填されることを明らかにした。また,これまでに提案した励起子レート方程式モデルによって効率曲線を解析した結果,400 K付近において励起子の輻射再結合過程が非輻射再結合過程よりも優勢であることを確認できた。このことは400 Kにおいても励起子発光が高い安定性を有することを示している。以上のことから、励起子効果を利用した発光デバイスの実現の可能性が示された。
3: やや遅れている
研究課題は概ね当初の計画に従って実施することができたが,これまでの研究期間全体を通して,COVID-19の影響によって研究成果の公表が計画に比べて不足していると考えている。そのため,進捗はやや遅れていると判断した。
本年度は前年度までに得られた成果を論文誌への投稿や国内学会、国際会議等での発表によって公表する予定である。
COVID-19の流行により、国内学会および国際会議の一部がオンライン発表形式となり、研究打ち合わせもオンライン会議で実施した。前年度に比べ、対面での発表機会は増えたものの計画段階で計上していた旅費相当分が次年度使用額となった。また、COVID-19の影響により研究成果の公表が期間全体を通して不足しているため、次年度に成果公表のための費用として使用する計画である。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件)
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