本研究の目的は,通常のRFIDが電磁誘導または電磁波による結合を介して電力供給とデータ通信を行っているのに対し,人体に電極を接触させる人体通信の原理を応用し,利用者が身につけたRFIDのデータを利用者が手で触れる受信機で読み取る人体通信型RFIDを実現することである. 2020年度は電力供給のシミュレーションと実験を行った.シミュレーションではタグ側電極として10×30mmの2枚の電極を外寸54×30mmに配置し,周波数21MHz,振幅2Vppの信号を印加した電極を指先で触れた場合,受信電力は約約7μWであった.実験は同じ電極寸法で周波数12.8MHz振幅2Vppの信号電極を手で触れ,受信電力は約1μWであった.これは目標の20μWより小さいが,共振回路の改良と送信電圧の増大により実現できると考えている. 2021年度は負荷変調によるデータ通信を試みた.電力供給はまだ不十分であるため実験装置は電池駆動とした.搬送周波数13.56MHzを分周した周波数212kHzまたは424kHzの矩形波によってアナログスイッチをオンオフし,手首に接触させる2つの電極間インピーダンスを変化させ,指先または手のひらで触れた受信回路によってインピーダンス変化の検出を試みた.結果はアナログスイッチのゲート入力の静電容量の影響でスイッチングによる過渡的な信号が電極間に現れ,本来はインピーダンスのみが変化すべきところ実際には電極間に電気信号が現れてアクティブな人体通信と等価な状態になり,負荷変調によるデータ通信は確認できなかった.原因は十分に解明できていないが,本課題以前の研究において人体通信は送信電極間電圧1~2V程度で通信ができていることを考えれば,負荷変調というパッシブな方法にこだわらず,人体通信型RFIDでは受信した電力を用いてアクティブなデータ送信を行う可能性も考えられる.
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