研究課題/領域番号 |
20K04594
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
石川 亮 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (30333892)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 高周波 / マイクロ波 / 無線電力電送 / 整流器 / 広ダイナミックレンジ / トランジスタ大信号モデル |
研究実績の概要 |
本研究は、頻発化・激甚化する自然災害に伴う電力供給の寸断に対して、それを補う技術として期待されるマイクロ波無線電力伝送技術に関し、マイクロ波電力を直流電力に変換するために用いられる整流器の共通課題である電力変換効率の入力電力変動による大幅な効率低下を解決すべく、電力供給量に応じて能動的に変換効率の最適化を行う新たな構成を有する高効率整流器デバイス開発を目指すものである。 研究初年度である今年度は、先ず、これまでに知見として得られていた、提案している低電力設計高効率整流器がゲートバイアス制御により効率ピークが制御可能、という性質を利用し、ゲートバイアス電圧を供給するための整流器と高効率整流器とを組み合わせることで、高周波入力電力変化応じて高効率動作を維持するように調整された高効率整流器構成の実証を行なった。実際にGaAs HEMT素子を用いて設計・試作し、2.27 GHzにおいて、入力電力レベルが0 dBmから 25 dBmの範囲で高周波ー直流電力変換効率60%以上、9 dBmから 24 dBmの範囲で70%以上という良好な広ダイナミックレンジ高効率性能が達成された。 また、設計に用いるための、非線形抵抗モデルを組み込んだ新しい整流器動作に特化したトランジスタ大信号モデルの構築にも着手し、既存のエンハンスメント型GaAs HEMT素子に対して測定結果との比較検討を行い、微小電力動作における効率見積もり精度が、測定結果とのフィッティング精度に大きく依存することを確認した。微小電力レベルでは非線形性が弱いために効率の見積もり精度は低下するが、逆にインピーダンス条件は定まりやすく、高効率特性を得るためのインピーダンス設計条件は精度よく得られるとの見通しを得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、先ず、これまでに実施した低電力設計高効率整流器の設計において、トランジスタ内の寄生容量と外付けのインダクタンスとの共振を利用して電圧振幅を上昇させ、さらに整合条件を整える、という回路構成を用いたが、その際に、高周波入力電力の増加に伴いゲートバイアス電圧を低下させることでインピーダンス整合条件が維持され、高効率動作が広い入力電力範囲で維持される現象が発見されている。また、トランジスタ整流器では負の直流出力電圧が生成可能であることもわかっている。この2つのことを利用し、しきい値電圧がゼロボルト付近に調整された化合物半導体のGaAs HEMT素子を2つ用い、高周波入力電力の増加に伴い零から負電圧に変化するようにしたゲートバイアス用直流出力電圧を生成する整流器、そしてゲート零バイアスで高調波処理も加えて低電力で高効率となるように設計された整流器、の2つの整流器を組み合わせることで、概要に記した性能の広ダイナミックレンジ高効率整流器が実現された。 また、非線形抵抗モデルを組み込んだ新しい整流器動作に特化したトランジスタ大信号モデルの構築にも着手した。トランジスタ大信号モデルは一般的に増幅器用に最適化されており、IV特性の第1象限のみでのフィッティング精度が重視されるが、整流動作では、第1象限と第3象限の両方で特性を再現する必要がある。この課題に対し、増幅器用のモデルを参考にしつつ、非線形抵抗モデルのパラメータの整流器動作に適したフィッティングを実施し、測定値との比較検討を行い、低電力での効率見積もり精度等の問題点の洗い出しを行なった。
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今後の研究の推進方策 |
今後の課題としては、先ず、今年度は高効率整流器としてゲート長が0.5ミクロンのプロセスで試作された零しきい値のGaAs HEMT素子を用いたが、ゲート長が0.25ミクロンのプロセスのGaAs HEMT素子を用いたほうが高効率特性が得られる可能性があり、さらなる高効率化を目指した広ダイナミックレンジ整流器の実現を目指す。また、高電力化に対応するために、ワイドバンドギャップGaN HEMT素子を高効率整流器として用いた構成に関する検討も始める。 また、ここまでの検討において、トランジスタ整流器の動作原理として、高効率整流器のドレイン側への高周波入力が一部帰還容量を介してゲート側に漏れて、それがゲートスイッチング信号を生成しているが、その際に、ゲート側の非線形性により、ゲート側でも整流による直流電流生成が生じることが新たにわかった。この整流電流を利用することで高周波入力電力に応じて適応的にゲートバイアス電圧を変化させる構成が実現できることが考えられ、この新構成に関する検討も実施する。 また、非線形抵抗モデルを組み込んだ新しい整流器動作に特化したトランジスタ大信号モデルの構築に関しては今後も継続して実施する。特に、広ダイナミックレンジ動作での精度向上に向け、また、汎用性を高めるために複数の種類のトランジスタ素子に対する検証を重ね、モデルの修正を行いながら設計精度の高いモデルの実現に向けて検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナの影響で学会等がリモートになり旅費がかからなかったことが原因の一つである。 また、消耗品において、一部、既存のものを使用したため、想定よりも少なくなった。 一方で、今後、試作・評価を積極的に行うことを予定しており、それにかかる消耗品を予定よりも増強して購入する。
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