研究課題/領域番号 |
20K04596
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
光藤 誠太郎 福井大学, 遠赤外領域開発研究センター, 教授 (60261517)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | パルスESR / ジャイロトロン / FID / ミリ波 / 自動計測 / 量子コンピューター / beyond 5G |
研究実績の概要 |
量子コンピューターの候補として興味が持たれる, 希薄ドープの Si:P の測定では 個々の電子スピンが常磁性状態を維持するためにはPドープによる電子スピン数 10^17 spins/cc 以下である必要がある. 我々が開発を進めているミリ波帯のパルスESR装置で計測を行うには, いまだ一桁感度が足りない. そこで一桁の感度向上を達成するために NMRで行なわれているように信号のアベレージングを行うことを計画した. ただし, ここで問題になるのはジャイロトロンの発振器は, 位相制御されていないので, 測定ごとの位相はばらばらである. そのため単純に FID の中間周波数帯の検波信号を足し合わせても各々の信号が打ち消しあってしまう. そこで何度かフーリエ変換し, 周波数フィルタリングなどの信号処理を行い, FID のエンベロープを取り出しアベレージングを行う必要がある. 現在は各測定ごとに一つ一つのデータを人が手動で吟味し解析することで, アベレージングを行い SN の向上とそれに伴う感度の向上を確かめているが, この方法ではとても時間がかかり, また十分な SN の信号なのかをリアルタイムに検証できない. そこで, 今年度はこれまで手動で一つ一つ行っていた解析と平均化のプロセスに対してコンピューターによる自動化システムの開発を行い, 平均化等の統計的手法を効率的に用いることで, 少なくとも一桁の測定感度の向上を行うことを目指して開発を進めた. 人が手動で行う場合は, ある程度解析に用いるデータを選別していたが, 今回は、無作為の(すべての)データを用いて平均化を行ったが, おおむね人の解析に近いSNの向上がみられることが分かった. またデータ取り込みや解析の速度の関係から, 測定データすべてを用いることができておらず, 速度の改善等の課題も明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度はこれまで手動で一つ一つ行っていた解析と平均化のプロセスに対してコンピューターによる自動化システムの開発を行い, 平均化等の統計的手法を効率的に用いることで, 少なくとも一桁の測定感度の向上を行うことを目指して開発を進めた. 当初予期していなかった最大の事態はコロナ禍により, 実際の実験を行うことが, 期間の前半はほぼ困難であったことと, 遠隔での開発を行う必要があった点である。実験の実施に関しては当初予定していた実験回数の半分程度となったが, 幸い本年度の計画では, PCによる自動解析システムの開発が中心であったため, これまでの実験で蓄積したデータをダミーデータとして自動解析ソフトの開発を進めることができた. また解析ソフトとしてはMATLABを利用する予定であったが, ライセンスが利用するパソコンに固定されるため、遠隔での利用が難しかったのでオーブソースで類似のソフトであるSciLabにより開発を行った. おおむね予定していた機能を実現することができたが, データ転送や解析の速度の問題が明らかになった. また, 十分な実験的検証を行うことができなかったが, 厳選した実験においてPCによる自動解析とアベレージングによるSNの向上を確かめることができ, 本年度の目標はおおむね達成され, 開発のシナリオも大筋ではうまく進んでいるといえる状況である.
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今後の研究の推進方策 |
典型的な安定ラジカルの, BDPA やコール, また DNP-NMR で効果が期待されているバイラジカルなどについて FT-ESR によるスペクトルの測定を行う. BDPA は DNP-NMR に用いられるラジカルではあるが共鳴線幅が狭くこれまでの cw-ESR の報告ではでは明確な BDPA の線幅の議論は少なく, g 値の異方性についても DNP-NMR 効果から指摘されているにすぎない. 直接 ESR による異方 性の測定を可能として DNP-NMR の動的偏極度とラジカルの異方性の関係が現在の理解でよいのか どうかを検証する. 我々はすでに開発を進めている本パルス ESR 装置による FT-ESR により, BDPA のスペクトルを高分解能で計測したところ, これまでに指摘されていた線幅の二倍程度でかつ, 一軸の異方性からくる粉末パターンに似たスペクトルを得ている. 現段階では何度か測定を試みている が, この非対称なスペクトルが本質的なものなのか, 共鳴磁場の不均一から来たものなのかははっきりしない. 昨年度開発したPCによる自動解析システムによりアベレージングやソフトウエアーによる自動データ収集により, より短時間で高いSNの計測を行うことができれるようになった. より短時間の測定でパラメーターのドリフトを抑えて, よりボリュームの小さな試料を用いて, 試料ボリューム内の磁場 の不均一度を下げることで, スペクトル線幅の様子を測定し, 現在の非対称なスペクトルが本質的なのか, 装置の不完全性 (磁場の不均一度やパラメーターのドリフト) から来ているのかを実験的に明らかにし, 装置の信頼度の評価を含め信頼できるBDPAやコールの高分解スペクトルを得る. さらにその限界となる分解能はどのくらいかを明らかにする.
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により当初予定していた実験を行うことが難しくなった. そこで本年度は実験とソフト開発の割合を計測システムのソフトウエアー開発の部分を先に進めて, 実際の実験を最小限にして進めた. そのため実験実施に必要な寒剤の料金分が未使用となった. 今年度もコロナ禍が解消されたわけではないが, 感染対策行いつつ昨年度実施できなかった実験を、次年度使用額をもちいて実験を行う. 当初の予定と入れ替えたことにより, 実施効率はさがっているが, 国際会議が遠隔となって旅費が必要なくなったりした経費を使うことで, 十分な実験が行えるように努める予定である.
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