研究実績の概要 |
量子コンピューターの候補として興味が持たれる, 希薄ドープの Si :Pの測定では 個々の電子スピンが常磁性状態を維持するためにはPドープによる電子スピン数 10^17 spins/cc 以下である必要がある. 我々が開発を進めているミリ波帯のパルスESR装置で計測を行うには, いまだ一桁感度が足りない. そこで一桁の感度向上を達成するために信号のアベレージングを行うことを計画した. ただし, ここで問題になるのはジャイロトロンの発振器は, 位相制御されていないので, 測定ごとの位相はばらばらである. そのため単純に FID の中間周波数帯の検波信号を足し合わせても各々の信号が打ち消しあってしまう. そこで何度かフーリエ変換し, 周波数フィルタリングなどの信号処理を行い, FID のエンベロープを取り出しアベレージングを行う必要がある. 本研究ではコンピューターによる自動化システムの開発を行い, 各測定の位相補正を行い平均化等の統計的手法を効率的に用いることで,一桁以上の測定感度向上を実用的な時間スケールで達成した. 高感度化により 微小試料の測定が可能になったので微小試料を用いることで試料内の磁場の不均一分布を押さえ, 本質的な線幅を見積もることができた. 次にSi:PのFID測定を行ったが, 予想していた感度では信号は見えなかった. 外部磁場の不均一性による緩和時間の減少等の影響が考えられる結果であった. 次にエコー測定を目指した光駆動半導体スイッチの改良に取り組んだ, これにより任意の入射角や偏光で用いることのできる新しいスイッチの開発に成功した. 今後このスイッチ用いることで, より効率的に電磁波を制御し, 今より強い励起状態を実現することで, Si:Pの希薄スピンの信号測定につながると考えている.
|