研究課題/領域番号 |
20K04597
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
佐藤 隆英 山梨大学, 大学院総合研究部, 教授 (10345390)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | スイッチング電源 / エナジーハーベスティング / 高効改善 / 小面積化 / チャージポンプ |
研究実績の概要 |
令和3年度は、数mWから数十mW程度の発電能力を有する発電素子を用いたエナジーハーベスティングに適する電源回路のさらなる効率改善のため制御方法の比較検討および試作に向けた回路の設計を行った。 電源回路の基本構成は研究代表者らが発明したトランスを用いたスイッチング電源(特許6846762号)としている。このスイッチング電源はスイッチング電源を構成する主要部分において電流が経由するスイッチが1個であるため、スイッチ導通時の抵抗(オン抵抗)による電力損失が最小であり電力効率に優れる特徴がある。さらに動作モードを3種類(降圧・昇圧・昇降圧)有するため、入出力電圧に応じて適切な動作モードを選択することで効率の改善が可能である。 前年度までに設計した電源回路のさらなる高効率化のため、ヒステリシス制御を導入した。ヒステリシス制御は誤差増幅器が不要であるため、定常的なバイアス電流が削減でき消費電力が改善される。ヒステリシス制御を用いた場合でも複数の動作モードを遷移して動作する本電源回路を安定に制御可能であることを示した。さらに効率の改善効果を確認した。さらなる消費電力の低減のため、スイッチとして動作するMOSFETのゲート端子に与える駆動信号の電圧を入力電圧及び出力電圧に応じて動的に制御する制御方法を導入した。電源回路はスイッチにおける消費電力を低減するため大きな寸法のMOSFETが用いられており、MOSFETのゲート容量を充放電するための損失が支配的であった。ゲートに与える制御信号の振幅を入出力電圧に応じて動的に制御することで電源回路の効率が改善可能であることを明らかにした。 回路の試作に向けて各回路ブロックのレイアウト設計を行った。使用予定の製造プロセスの変更を行った。またMEMSを用いた電源回路の実現可能性について調査および専門家との意見交換をおこない試作に向けた準備を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度終了時において研究は概ね予定通り進行している。現在、令和4年度中の電源回路の集積化(試作)に向けて準備を行っている。令和4年度の試作を可能とするため、試作に用いる製造プロセスをより試作機会が多く得られる製造プロセスに変更し、電源回路の再設計を行った。回路の再設計に伴い、電源回路に新たな制御方法の導入を行い、さらなる効率改善を実現した。前年度までに提案していた「チャージポンプ(補助電源)の段数の動的制御」と「補助電源の入力電圧の選択」に加えて、「スイッチの制御信号の大きさの動的制御」を新たに導入することができた。本研究課題では比較的大きな負荷電流を想定している。そのため電源回路はスイッチにおける消費電力を低減するため大きな寸法のMOSFETがスイッチに用いられる。通常、スイッチでの導通損失を最小とするためMOSFETのゲート電位は耐圧が許容する最大電圧を加える。このためMOSFETのゲート容量を充放電するための損失が大きくなる。提案する電源回路では、入力電圧と出力電圧の値に応じて、制御回路部分の電圧を動的に制御しMOSFETの制御信号の大きさを制御し、補助電源および制御回路部分の消費電力の低減が可能であることを新たに明らかにした。これらの工夫により、出力電圧1.8 V、出力電流10 mA時に入力電圧範囲(0.8 Vから3.0 V)において87 %以上の効率を実現している。 これまでに電源回路全体のトランジスタレベルでの設計およびシミュレータによる評価が完了しており、入力電圧範囲全域において回路の効率が改善することを確認している。制御方法として電圧制御を用いた回路についてはレイアウト設計も完了しており、ヒステリシス制御を行う回路については制御回路を構成する個々の回路ブロックのレイアウト設計が完了している。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度はこれまでに設計を行った電源回路の集積化を予定している。まず、ヒステリシス制御を用いた電源回路の制御回路のレイアウト設計を行う。現段階で制御回路を構成する個々の回路ブロックの設計が完了しているため、それらを接続した回路全体のレイアウト設計を行う。レイアウト結果から寄生素子の抽出を行い、寄生素子の影響を考慮したシミュレーションを実施し、設計に反映させる。レイアウト設計完了後は試作した回路の評価を行うため、評価ボードの作成など評価に必要な準備を行う。電源回路単体での評価として、出力電圧の評価、効率、入力電圧変動時の過渡応答、負荷変動時の過渡応答、異なる動作モードでの評価を予定している。 電源回路の評価後は、製作した電源回路を用いて実際にエナジーハーベスティングを行う。この実験を通じてエナジーハーベストを実際に行う際の電源回路の課題を明らかにする。これまで電源回路の効率の改善を実施しているが入力電圧の最大化については検討していない。入力電力を最大化し、入力電力が過剰となる際の蓄電と組み合わせることでより悪条件下に適した制御方法が実現できると予想する。試作回路を用いた実験を通じて新たな課題と可能性を明らかにする。 またDC-DCコンバータへのMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術の応用可能性について検討する。これまでに電気エネルギーを機械エネルギーに変換した上で電圧の昇圧および降圧を実現するDC-DCコンバータの報告は多数なされている。一方で、スイッチング電源のスイッチをMEMS技術用いて実現したスイッチング電源の報告は少ない。これまでにMEMS製造技術を有する企業と意見交換を実施しており、令和4年度には主回路部分の試作を検討していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今後実施予定の集積回路試作費および試作回路の評価費用として予算の確保をおこなった。今後、集積回路の試作および評価のために使用することを予定している。
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