令和4年度は、集積回路の実現に向けて等価回路パラメータの精度向上を目指した。令和3年度試作に搭載したトランジスタのテストパターンから抽出した散乱行列は、ゲート幅の異なるものでデータにかなりの乖離があり、特に高周波帯で精度が取れなかったことから、テストパターンそのものの見直しを行った。高周波信号用の入出力パッドに問題がある可能性があったため、同じプロセスで試作を行った経験のある他大学の先生から教えを請い、パッドの構造を改良した。トランジスタのパラメータは最良と思われるものを選んで設計を行ったが、今年度の試作の結果も設計との乖離が大きく、残念ながら試作による実証を行うことはできなかった。しかしながら、計画当初予定していた回路動作の理論的検証は予定よりも多くの検討内容について検証することができた。計画時に提案した「反転歪補償型構成の振幅制限増幅回路」は詳細な検討の結果、大きなパワの光信号入力時には、初段の増幅器による信号の立ち上がり立下り時間の改善が、二段目の歪み補正効果を弱めていることが分かり、ダイナミックレンジの拡大に向けた課題を抽出することができた。さらに同符号連続長との関係性を考慮に入れると、1ギガビットイーサの信号では7.56ナノ秒(平均値検出回路の帯域を55MHzに設計)で最も短い時間で歪が標準範囲に収まることを明らかにした。この結果については令和5年度に英文論文化を予定している。より高速なビットレートへの挑戦として行った「PAM4変調信号のバースト応答に向けた時定数制御回路の検討」は電気・情報関係学会九州支部連合大会で発表した。担当した学生は連合大会講演奨励賞を戴いた。送信回路の検討も同大会で発表を行い、活発な意見交換が行われた。3年間を通じてコロナとトランジスタの等価回路に苦しめられたが、理論的解明を進めることができた。集積化に対する挑戦は来年以降も継続する。
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