研究課題/領域番号 |
20K04601
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
榎原 晃 兵庫県立大学, 工学研究科, 教授 (10514383)
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研究分担者 |
佐藤 孝憲 北海道大学, 情報科学研究院, 准教授 (60835809)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 多モード干渉光導波路 / 電気光学変調素子 / ニオブ酸リチウム / 光結合器 / 90°ハイブリッド / チタン拡散光導波路 |
研究実績の概要 |
高速光変調器などの電気光学素子では,チタン拡散によるニオブ酸リチウム光導波路(Ti拡散LN導波路)が広く用いられている.一方で,多モード干渉(MMI)光導波路構造は,複数端子の光結合器等が実現できることから,電気光学素子と一体化することで素子の高機能化が期待できるが,Ti拡散LN導波路では実現されていない.本研究では,MMI導波路素子をTi拡散LN導波路で実現し,MMIによる光結合器を用いて新たな機能を持つ電気光学変調素子を提案し,実験的にその動作実証を行うことを目的とする. 令和4年度は,令和3年度に実現した光電力分配比の電圧調整が可能な2×2光結合器とそれを組み込んだ高消光比のマッハツェンダ電気光学変調器(MZM)構成を用いて,高機能な光変調素子に実現すること,および,従来より検討を進めてきた多端子のMMI光結合器で構成した多重並列干渉構造による新しい高機能光変調器の検討を行った. 令和4年の主な研究成果として,2×2MMI光結合器を用いた高消光比MZM構成を基にして,マイクロ波分配回路と一体化した変調電極を用いることで,単一入力で動作する光SSB変調器を設計・試作し,その動作を実験的に実証した.10GHz帯において,分配比調整によりMZMの変調のアンバランスを補償し最大37dBの優れた側波帯抑圧比を実証した.次に,分配比調整可能な1×3MMI光結合器を設計・評価し,それを用いて3並列干渉光変調器を構成して,出力光の変調度を可変できる単一側波帯(SSB)光変調器を検討した.実験で,搬送波を抑圧することで0.2の変調度を最大1近くにまで増大させることが確認できた.これにより変調歪みを抑えながら高い変調度を実現することが可能性である.本構成は,歪み補償変調や搬送波抑圧SSB(SC-SSB)変調などにも応用できる可能性があり,これらについては現在検討中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題の当初の研究計画では,令和4年度は,1. MMI構造を一体化したMZMの耐電力性能の検討,2.光結合器を組み込んだ多値変調向け高速電気光学変調素子の検討.としている. 1.に関して,2×2MMI光結合器を用いた高消光比MZMは,相補的な関係にある2つの光出力が得られるため,原理的には,入力された光電力はすべて出力される構成あるため,大電力光による光変調に適しており,耐電力性能は,通常の単一出力の光変調器に比べて優れていると考えられる.令和4年度に,光変調器を実際に作製することができたので,令和5年度に大力光に対する変調動作の検討を進めていく予定である. 2.に関しては,本課題の提案当初は,デジタル変調による大容量通信に向けた光変調の実現を目標の一つにしていたが,最近,5Gや次世代の6Gなどのモバイル通信システムの将来性が大きく注目され始めている.そこでは,光ファイバ無線(RoF)と呼ばれるアナログ無線信号による高速で,低歪み,低雑音の光送信機が求められている.そこで,令和4年度は,多値変調向け光変調器の動作も可能な多重並列干渉型光変調器の検討を始めて,高速アナログ変調に有用な光変調度を可変できる光変調器の検討を行った.令和5年度は,多重並列干渉型構造はQPSKなどの多値変調にも適用可能であるので最終的にはその検討も行う予定である. 研究全般としては,令和4年度も引き続き新型コロナの影響により,情報通信研究機構に出張して素子作製を行う回数が,当初想定していた回数よりも激減したため,素子作製にかなりの遅れが生じた.また,研究代表者が交通事故に遭い,1ヶ月間休業したことも,研究の遅延に影響している.そのため,本研究課題は1年間の期間の延長を行い,令和5年度に最終的な目標達成を目指している.
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今後の研究の推進方策 |
現在は新型コロナの影響もほぼ無くなっているので,延長期間の令和5年度は,情報通信研究機構での素子の試作実験はコロナ前と同様の頻度で進めていく.また,本研究課題の基本要素技術であるTi拡散LiNbO3導波路によるMMI素子の設計や作製条件などの基本的なMMI素子化のための技術は昨年度までに確立できた.延長期間である令和5年度は,最終目標の達成だけでなく,本研究をさらに発展させていく予定である.これにより,将来に有用な新たな研究課題の提案もしていきたいと考えている. 具体的な研究方針は,令和4年度より進めている多重並列干渉構造による光変調器を発展させ,1×3MMI光結合器による3並列干渉光変調器を歪み補償変調やSC-SSB変調に応用していく.また,1×4MMI光結合器,1×6MMI光結合器の設計をあらたに進めており,これにより,コンパクトな構造の4並列干渉型,および,6並列干渉型の光変調器を実現する.これらの光変調器構造を用いて,QPSKなどの多値光変調器,入力電気信号の整数倍の周波数の信号が得られる逓倍変調器などを実現する.また,研究成果の対外発表も積極的に進めていく.論文投稿や学会研究会での発表などを通して,本分野の科学技術の発展に貢献していきたい.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定では,効率的に研究を遂行するために,高度な加工装置が必要な光導波路の試作を情報通信研究機構(東京都小金井市)で行い,また,学生の研究テーマにして研究を加速することにしていた.しかし,新型コロナの影響で,情報通信研究機構への出張自粛が続いた.そのため,情報通信研究機構への学生を含めた出張旅費の執行が予定よりも大幅に少なくなり,それに伴って物品の購入も当初予定よりも少なかった.また,研究成果の対外発表のための出張も非常に少なかったため,研究期間の延長を申請し,出張旅費を中心に研究費の一部を繰り越した.令和5年度は,出張制限は解除されているので,情報通信研究機構への出張を再開して研究活動を活発化するとともに,得られた研究成果で対外発表も活発化することで,繰り越した予算を含めて,令和5年度中に執行する予定である.
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