研究課題/領域番号 |
20K04607
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
峯元 高志 立命館大学, 理工学部, 教授 (80373091)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 太陽電池 / 化合物 / 薄膜 |
研究実績の概要 |
レアメタルを用いないことから太陽光発電の大量普及時の資源制約を受け難い太陽電池材料として、Cu2SnS3(CTS)系の化合物薄膜の光吸収層に注目した。CTSは太陽電池の高効率化に有利な優れた半導体物性を有するが、結晶成長やデバイス構造の検討が不十分であるため、まだ効率改善の余地が大きい。本研究では、最適デバイス設計、高品質CTS系薄膜の成長技術確立、最適構造CTS系薄膜太陽電池の実現を通じて、変換効率15%を達成することを目的とする。また、本研究の最終段階では、効率20%達成に必要とされる要件を明確化する。 2020年度は、CTS系薄膜の高品質化の一つの手段としてGeを添加したCu2(SnGe)S3(CTGS)を光吸収層とし、このデバイス構造の最適化検討を行った。CTGS上に堆積するバッファ層として、従来は、化学析出法堆積のCdSとスパッタリング成膜のZnOの二層構造が用いられていた。今回は、後者のZnOを、ZnOとMgOの同時スパッタリングで作製した(Zn.Mg)Oに変更し、そのMg比と太陽電池性能の相関を明らかにした。ZnOにMgを添加することで伝導帯位置を制御(今回の場合は浅く)できるため、バッファ層と光吸収層間の伝導帯位置(バンドアライメント)を調整できる。Mg比(Mg/(Mg+Zn))が0の場合は、開放電圧(Voc)が0.226Vと低いために効率が1.7%であったものが、Mg比を増加させ0.15とすることでVocを0.383Vまで向上でき、その結果、効率は4.5%まで改善された。今回の結果によって、CTS系薄膜太陽電池においても、バッファ層の伝導帯制御によってVocを改善できることを実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、デバイス理論設計、CTS系光吸収層の高品質化、最適設計されたデバイス構造の実現を通じて、高効率化を実証することを目的としている。 今年度は、デバイス構造の検討を行い、他の材料系(特にCuInSe2系薄膜)で示されているバッファ層と光吸収層間の伝導帯位置(バンドアライメント)の調整(即ち、バンドオフセットの整合)の効果を、CTS系において実証した。その結果、適したMg比を定量的に明らかにした。変換効率の絶対値としては、目標には届かないものの、バッファ層の設計指針を定量的に明らかにすることに成功した。 以上より、研究進捗としては、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、CTGS太陽電池のデバイス構造を検討し、特に、バッファ層の伝導帯位置制御によってVoc向上の手法を明確にした。ただし、変換効率の絶対値としては5%弱であり、改善の余地が大きい。更なる効率の向上には、デバイス構造の最適化と結晶品質の向上の同時達成が必須である。今後は、CTS系薄膜の高品質化について、結晶成長時の温度プロファイルや元素添加による高品質化に取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が1138円生じた。 この額は、本研究を実行するための物品費(特に消耗品)の主な単価よりも小さく、研究費の効率的な執行のため、次年度に使用することが望ましいと判断した。
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