研究実績の概要 |
レアメタルを用いないことから太陽光発電の大量普及時の資源制約を受け難い太陽電池材料として、Cu2SnS3(CTS)系の化合物薄膜の光吸収層に注目した。CTSは太陽電池の高効率化に有利な優れた半導体物性を有するが、結晶成長やデバイス構造の検討が不十分であるため、まだ効率改善の余地が大きい。本研究では、最適デバイス設計、高品質CTS系薄膜の成長技術確立、最適構造CTS系薄膜太陽電池の実現を通じて、変換効率15%を達成することを目的とした。 Cu2(Sn,Ge)S3(CTGS)太陽電池の高効率化に向け、CTGS光吸収層への銀添加とCTGS太陽電池の構造最適化に取り組んだ。銀の添加量Ag/(Ag+Cu)(AAC)比を0から0.12の範囲で変化させた(Ag,Cu)2(Sn,Ge)S3(ACTGS)光吸収層を作製し、銀添加が光吸収層に与える影響を検討した。その結果、銀添加が結晶粒径の増大や非輻射再結合の減少に寄与することが明らかになった。ACTGS光吸収層を用いて太陽電池を作製したところ、銀を5%添加することで変換効率が2.2%から3.2%に向上することが明らかになった。これはCTGS光吸収層の欠陥減少やCuサイト減少による正孔キャリア密度の低減が、短絡電流密度の20.3 mA/cm2から26.5 mA/cm2への向上に寄与し、変換効率が改善したと考えられる。また、従来のZnO:Al(AZO)よりも光学特性が優れた(Zn,Mg)O:Al (AZMO)を透明導電膜として適用したCTGS太陽電池を作製した上で、(Zn,Mg)O(ZMO)のMg/(Mg+Zn)(MMZ)比を変化させ、バンド構造の最適化を検討した。その結果ZnOを用いた太陽電池の変換効率は0.9%であったが、MMZ比が0.14から0.36のZMOを用いることで2.5%から3.0%の効率が得られた。
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