研究課題/領域番号 |
20K04610
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
服部 香里 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 主任研究員 (10624843)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 単一光子検出器 / 超伝導検出器 / 微弱光イメージング / フラットレンズ / 超伝導転移端センサ |
研究実績の概要 |
超高感度、高波長分解能かつ可視光、近赤外域で一気にスペクトルイメージングを行うための超伝導検出器の研究を行う。超伝導転移端センサ(TES)は、超高感度で可視光、近赤外域の単一光子を一個ずつ分光して検出可能という、既存の検出器にない大きな特徴がある。一方、波長分解能向上についてはまだ開発途上である(近赤外で100 nm、可視光で50 nm)。バイオサンプルからの自家蛍光などをスペクトルを詳細に取得しながらイメージングするには、波長分解能を向上させる必要がある。そのためには、光子一個が吸収されたときのセンサ内の温度上昇を大きくするために小型化すればよい。しかし、小型センサと光ファイバを高効率で結合することが課題であった。 本研究は、(1)小型TESに高効率で集光できるフラットレンズの開発(2)2 umかそれ以下のサイズの小型TES、の二本柱で行う予定であったが、今年度から(3)超伝導転移温度を下げることによる分解能向上の取り組みを開始した。2021年度は(1)については、昨年度に引き続きフラットレンズの設計を行うためにFinite-Difference Time-Domain(FDTD)法を用いて検出器のシミュレーションを行った。(2)については、1 um角の検出器を試作し、単一光子のエネルギーを測定可能であることを示した。(3)については、超伝導転移温度を下げることで、世界最高レベルのエネルギー分解能(67 meV)を達成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は今年度より(1)小型TESに高効率で集光できるフラットレンズの開発(2)2 umかそれ以下のサイズの小型TES (3)超伝導転移温度を下げることによる分解能向上の取り組みの三本柱で行う。2021年度はこれらを全て実施した。 (1)については、フラットレンズの設計を行うためにFinite-Difference Time-Domain(FDTD) 法を用いて三次元の電磁波解析を行った。検出器およびフラットレンズの三次元モデルを作成し、入射光がTESの中心で集光することを確認した。一方で集光効率が50%程度と低いことが問題であることがわかった。そこで、2022年度はレンズの設計値において最適な値をパラメータサーチによって見つける予定である。 (2)については、1 umのTESを作成し、1.5 um(0.8 eV)の単一光子の信号を得ることに成功した。一方で、TESが小さいことにより、得られる波形が通常のTESと異なることがわかった。これまでのデータ解析では十分なエネルギー分解能が得られなかったが、解析手法を工夫することで、従来のTESと遜色ない分解能を得ることに成功した。 (3)については、超伝導転移温度(Tc)を従来の300 mKから115 mKまで下げることで、世界最高レベルのエネルギー分解能向上(67 meV)を実現した。100 meV未満の分解能を実現したのは、本研究が世界初である。Tcを下げるとTESの動作速度が遅くなるのがデメリットである。しかし、TESのエネルギー分解能を決定する要因が何であるかを探索するため、あえてTcを下げて検出器の電流ノイズを測定した。その結果、検出器由来の既知の電流ノイズに加え、未知のノイズの寄与が既知のノイズと同等程度あることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
(1)のフラットレンズについては、レンズの設計値において最適な値をパラメータサーチによって見つける。そして、集光効率をどこまで高められるか確認する。試作についても可能な範囲内で進める。現在産総研のクリーンルームが休止中であるため、立ち上がり次第試作を行う。 (2)の小型TESの作成については、方針を転換する予定である。TESを小型化することでエネルギー分解能を向上させる予定であったが、(3)の研究の未知のノイズの発見によって、まずはこの未知のノイズを削減しないと、いくらTESを小型化してもエネルギー分解能は50 meV以下にならないことがわかった。 未知のノイズの原因の一つとして、光子がTESの色々な場所で吸収されることが考えられる。そこで、フラットレンズで一箇所に集光して光子を検出することで、エネルギー分解能が向上しないか確かめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度は産総研クリーンルームが休止したため、素子作成関連の予算を次年度使用とした。
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