研究課題/領域番号 |
20K04616
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
川那子 高暢 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 助教 (30726633)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ナノ電子デバイス / 層状材料 / 絶縁膜転写 |
研究実績の概要 |
初年度は、ゲート絶縁膜をMoS2表面上に転写するために必要なhigh-kゲート絶縁膜の剥離プロセスを確立する実験を行った。この剥離プロセスには、本研究計画の根幹を成すアイディアの一つである“純水支援剥離法”を用いる。この方法は銅(Cu)、金(Au)、ニッケル(Ni)などの貴金属とシリコン酸化膜(SiO2)との間の密着力を制御する機械工学の研究に基づく。SiO2上に堆積した貴金属は純水に浸漬すると水分子が金属とSiO2界面に侵入するため、金属とSiO2との間の密着力が著しく低下し、純水中で金属を容易に剥離できる。本研究では、当初の計画通りこの純水支援剥離法に用いる金属としてAuを検討した。熱酸化によって作製したSiO2/Si基板にAuを抵抗加熱蒸着によって堆積し、Au表面にスコッチテープを貼り付け純水中でAuの剥離を実験的に確認した。次に原子層堆積法によるゲート絶縁膜をAu上に堆積し、スコッチテープを貼り付け、純水に浸漬し絶縁膜/Auの積層構造をSiO2基板から剥離できる事を確認した。原子層堆積法によるゲート絶縁膜には、300度程度の基板加熱を用いた。熱処理を施すと金属とSiO2界面の密着力は強くなるため、原子層堆積法によるゲート絶縁膜形成後にこの純水支援剥離法が適用できるかを調べた。その後、ゲート絶縁膜の保護層としてPMMA(Polymethyl methacrylate)を形成し、PMMA上にPDMS(Polydimethylsiloxane)を貼り付け純水支援剥離法によってPDMS/PMMA/ゲート絶縁膜/Auの積層構造をSiO2基板から一気に剥離した。剥離した積層構造を素子作製用の別のSiO2/Si基板上に貼り合わせホットプレート上で加熱した。PDMSは熱膨張を起こしPDMSからPMMAが剥離した結果、ゲート絶縁膜の転写に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に計画していた純水支援剥離法を用いたゲート絶縁膜の転写プロセスを確立する事ができた。純水支援剥離法の犠牲層金属としてAuを用いると、300度程度の基板加熱を用いた原子層堆積法によるゲート絶縁膜形成後でも純水支援剥離法が適用できる事が確認できた。Auは反応性が極めて低い金属であるため純水支援剥離法に適した金属であると考えられる。PDMS/PMMA/ゲート絶縁膜/Auの積層構造をSiO2基板から一気に剥離し、別のSiO2/Si基板上に貼り合わせ、ホットプレート上で加熱することでPDMSからPMMAが剥離した結果、ゲート絶縁膜の転写に成功した。本年度は原子層堆積法によるゲート絶縁膜としてSiO2及びAl2O3を用いた。どちらも純水支援剥離法によって剥離と転写が可能である事を確認した。純水支援剥離法によるゲート絶縁膜転写を用いてトップゲート構造のMoS2 FETを作製し、デバイス動作を確認する事ができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は純水支援剥離法を用いたゲート絶縁膜の転写プロセスによって、異なる種類のゲート絶縁膜をMoS2上に形成し、FETの電気特性を評価する予定である。それにより界面制御の方策を実験的に検討する。またチャネル材料としてMoS2以外にWSe2も検討している。MoS2は基本的に硫黄欠陥による電子ドーピングによって、電子が伝導するn型FETとして動作するが、逆に正孔が伝導するp型FETの実現は極めて難しい。一方、WSe2はソース/ドレインの金属材料の仕事関数によってn型とp型の両極性伝導を示す。故に、適切な金属材料をソース/ドレイン電極に用いる事でMoS2では不可能なp型FETを実現できる。界面現象は伝導するキャリアの種類によってその特性が異なると予想されることから、n型とp型の両方のFETを作製し評価する事も計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
世界規模でのコロナウイルス感染によって、参加を予定していた国際学会及び国内学会が中止あるいはオンライン開催に変更されたため、旅費の使用が全く無くなってしまい次年度使用額が生じた。また、コロナウイルスの影響により大学への教員及び学生の出校制限、リモートワーク推奨などにより予定していた実験計画を変更せざるをえない状況になり、物品費も抑える事となり次年度使用額が生じた。 今年度も引き続きコロナウイルスの影響により参加を予定している国際学会及び国内学会はオンライン開催となるために旅費の使用は全く無くなると思われる。そこで今年度は測定器を新たに購入し、これまでできなかった電気特性を評価できる環境を整える予定である。
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