研究課題/領域番号 |
20K04625
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研究機関 | 秋田県立大学 |
研究代表者 |
伊東 良太 秋田県立大学, システム科学技術学部, 助教 (20433146)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | テラヘルツ波 / 液晶 / 水素結合 / 分子間相互作用 |
研究実績の概要 |
本研究は、テラヘルツ波による無線通信の実用化にとって重要となる「液晶アンテナ」に有望な液晶を「分子間相互作用に焦点を当て開発」することが目的である。令和2年度は、分子間相互作用として、水素結合に焦点を絞り、分子構造を変えた水素結合液晶のテラヘルツ帯および可視光域での物性評価を行った。 一般的に液晶の分子構造を変えることで特性を制御すことができ、末端基とコア部を変えることでその特性が大きく変わる。水素結合液晶でも同様に分子構造を変えることで複屈折や損失が変わる可能性があるため、分子構造を変えた水素結合液晶を対象として評価を行った。具体的には、ベースとなる水素結合液晶に様々な分子構造を有する安息香酸を混合し評価を行った。本研究では、テラヘルツ帯の複屈折と損失をテラヘルツ時間領域分光法により評価し、可視光域の屈折率はアッベ屈折率計を用いて評価した。 水素結合液晶に様々な末端基を有する安息香酸を混合した場合、末端基がCN、Cl, CF4では5w%程度、末端基がFでは15w%程度まで混合しても液晶状態が保たれることが分かった。混合された安息香酸は二量体を形成している可能性が高く、これらの液晶材料を評価することで、水素結合液晶における末端基の影響が明らかになると考えられる。末端基がCN、Cl, CF4の場合は、混合比が低いこともあり、テラヘルツ帯での物性への影響を確認できなかったが、末端基がFの場合は、可視光およびテラヘルツ帯の物性に変化が確認された。特にFの位置が異なる、2-フルオロ安息香酸、3-フルオロ安息香酸、4-フルオロ安息香酸ではテラヘルツ帯での吸収係数、複屈折に差が確認され、末端基の位置が水素結合液晶の物性に影響を与える可能性が示された。 以上の結果から、水素結合液晶のテラヘルツ帯の物性には、末端基が重要な役割を果たしていることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度は当初の計画通り、水素結合を分子間相互作用とする液晶に焦点を絞り評価を進めた。水素結合液晶の分子構造がテラヘルツ帯の物性に与える影響を調べるために、アルキル基のみを有する水素結合液晶へ様々な末端基を有する安息香酸を混ぜた液晶を評価した。テラヘルツ帯での屈折率および損失はテラヘルツ時間領域分光法により評価を行った。また、可視光の屈折率は導入したアッベ屈折率計により評価を行った。 実験結果から、水素結合液晶のテラヘルツ帯の物性に末端基が影響することが明らかになるだけでなく、末端基の位置に対する依存性も確認された。目的としていた、水素結合を分子間相互作用とする液晶のテラヘルツ帯での物性評価において新たな知見が得られため、当初の計画通り進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は、電荷移動型相互作用やイオン相互作用に基づく液晶に範囲を広げてテラヘルツ帯および可視光域で物性評価を行う。 電荷移動相互作用は、分子それぞれが電荷を帯びその結果生じる分子間力であり、液晶相の安定化や出現に深く関わる重要な効果である。一方、イオン相互作用は電荷を共有するイオン間に働く力であり、イオン相互作用により発現する液晶も報告されている。これらの液晶も水素結合液晶と同様に分子間相互作用の影響により、テラヘルツ帯での複屈折と損失が他の液晶と異なる可能性がある。しかし、現時点で、これらの液晶のテラヘルツ帯での特性は報告されていない。そこで、液晶の混合系での電荷移動相互作用やイオン化部を持つ低分子液晶を対象として、令和2年度と同様の測定法でテラヘルツ帯と可視光域で評価を行う。得られた結果から、分子間相互作用がテラヘルツ帯の複屈折と損失に与える影響を明らかにしたい。
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