本研究では,湿度と温度の組み合わせはセメント硬化体の「含水状態の違い(=C-S-Hや空隙が保有する水分量)」と捉え,C-S-Hを含め個々の水和物の炭酸化メカニズムを明らかにすることを目的とした.さらに,炭酸化したC-S-Hの微細構造やセメント硬化体の空隙構造の変化に基づき,炭酸化収縮および物質移動性状を評価した. これまでの検討により,炭酸化時の湿度条件が異なる場合,セメントペースト中で生成された個々の水和物の炭酸化進行が異なることを明らかにした.湿度が高い条件では,ポルトランダイトの炭酸化が進行しやすく,湿度が低下するほど微細なC-S-Hの炭酸化が進行することが確認された.これらの結果は,空隙構造との関連を示しており,C-S-Hの炭酸化が進行した供試体ほど,水蒸気吸着等温線や走査型電子顕微鏡による反射電子像で観察されるような粗大な空隙が増加していることを確認した.混和材を置換した供試体においても同様の検討を行った結果,材料の違いによらず水和物の炭酸化進行が湿度に依存する傾向を示すことが明らかとなった.また,炭酸化によって生成される炭酸塩鉱物(カルサイト,アラゴナイト,バテライト)は,水和物由来よりも供試体の含水状態に依存している可能性が示唆された.コンクリート供試体を用いた検討では,モルタル部の炭酸化収縮により骨材周囲に微細な損傷(ひび割れ)が発生することを確認し,混和材の置換した供試体ではモルタル部での収縮の変化が大きく,骨材周囲に大きな損傷を与えている可能性が考えられた.セメントペーストおよびコンクリート供試体の気体の拡散係数の比較から,炭酸化後のコンクリートでは,炭酸化による空隙率の変化に加え,損傷の影響により拡散係数が増加する結果を示した.このことから,炭酸化を起点とした水和物の変化がコンクリートの品質を低下させる可能性が示唆された.
|