2022年度においては,小型供試体を用いて900,1100℃で底面から一方向30分間加熱した場合の爆裂深さ(かぶりの大きさ)と鋼材の受熱温度・残存強度の関係を明らかにするとともに,JISプレテション桁を対象とした実構造部材レベルでの火災加熱実験(900℃60分加熱)を行った。 小型供試体を用いた加熱試験を通じて,かぶりの大きさと鋼材の受熱温度の関係は加熱方法の影響を大きく受けることが明らかになるとともに,鋼材の最高受熱温度と残存強度には一定の関係が認められ,400~1100℃の範囲における両者の関係を定式化することができた。 JISプレテンション桁を対象とした実構造部材レベルでの火災加熱実験を通じて,爆裂状況には加熱温度や時間が大きく影響し,最高温度700℃の外部火災曲線を用いた場合は加熱時間が残存耐力に及ぼす影響は顕著でない一方で,最高温度を900℃に設定した油火災曲線では加熱時間を60分にした場合の爆裂深さが大きくなり,鋼材の強度が低下するため,残存耐力の低下が大きくなった。 本研究を通じて,鋼材の最高受熱温度が,鋼材の強度が低下する目安となる400℃まで到達せず,かぶりの爆裂が鋼材に達しない限り,通常の外部火災を想定した場合は部材の顕著な耐力低下が生じる可能性は少ないことが明らかとなった。また,火災被災後の残存耐力の評価には爆裂深さの正確な評価が重要であるが,本研究の範囲内では,爆裂開始時期・温度や範囲,深さ等と加熱曲線・加熱時間との関係性について明確にすることができなかった。一方で,鋼材の最高受熱温度と残存強度の関係は定式化ができており,熱伝導解析の中で各要素の爆裂開始温度を設定し,その温度に到達した要素を逐次取り除くような手法を導入することで鋼材受熱温度を推定することができれば,より的確な残存耐力の評価が可能となると考えられる。
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