本研究では,軌道の座屈温度(強度)を支配する初期通り変位波形と道床横抵抗力とを,不確実性を有する確率変数として捉え,それらのバラツキを考慮した座屈温度の確率分布を求め,座屈確率に基づいた軌道管理法について検討した. 最終年度である令和4年度は,軌道の通り変位波形が高精度に測定できる場合を想定して,座屈管理に適した弦正矢の弦長について検討を行った.まず定常ランダムな通り変位波形を多数生成し,それより5m弦正矢データを求めた後,当該データから再度通り変位原波形を復元して,それを用いた軌道座屈解析より座屈箇所と座屈温度とを予測した.それらと正解の座屈箇所と座屈温度とを比較して,5m弦正矢データからの波形復元による座屈推定精度を求めた.同様の手順で,10m弦正矢に基づく推定結果も調べた.その結果,座屈予測には,座屈モード波長の成分が概ね再現可能な5m弦正矢データが適切であることがわかった. 上述の他,補助事業期間全体を通して,以下の成果を得ることができた. ランダムな軌道初期通り変位波形の分散と相関長とが座屈強度の確率特性に及ぼす影響を調べた結果,特に飛び移り座屈温度は分散に対して鋭敏であり,軌道座屈管理の際にはその適切な評価が重要であることを明らかにした.また,道床横抵抗力の空間変動については,座屈モードより長波長の成分が確率特性に大きく影響することがわかった.さらに,軌道拘束力の終局値である最終道床横抵抗力の分散が座屈確率に影響を及ぼすことがわかった. 通常用いられている10m弦正矢測定データに基づいた通り変位波形管理を想定して,波形補修がなされた場合,補修後の飛び移り座屈の強度(温度)確率が,補修前に比べ7~8℃向上しており,10m弦正矢に基づいた通り変位補修が座屈強度の改善に有効であることを確率論的に明らかにした.
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