研究課題/領域番号 |
20K04677
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研究機関 | 国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所 |
研究代表者 |
高橋 一比古 国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所, その他部局等, 研究員 (30425748)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 疲労き裂 / 鋼構造物 / 補修 / き裂進展抑制 / 腐食生成物 / くさび効果 / 含水ジェル / 湿潤環境 |
研究実績の概要 |
疲労き裂の内部に腐食生成物が生じると、所謂くさび効果によってき裂進展速度が大幅に抑制される場合がある。腐食環境下におけるき裂の進展挙動は、くさび効果による抑制作用と腐食溶解等による加速作用のせめぎ合いとなるため、前者が相対的に卓越するような湿潤環境をき裂内に作り出すことができれば、き裂進展を効果的に抑制することが可能となる。そこで本研究では、湿潤環境をき裂内で局所限定的に実現する手段として高含水率の含水ジェルを用いたき裂進展抑制シートを試作し、その有効性について検証を行う。 2022年度は、前年度に引き続き鋼平板試験片を用いたき裂進展試験を実施し、試作したき裂進展抑制シートの性能評価を行った。具体的には、市販の含水ジェルシートに蒸留水、塩水または人工海水を含浸させたものを用いて含水成分の影響をみるとともに、流電陰極層や流電陽極層の効果についても比較検討を行った。 その結果、試験片の片側にき裂進展抑制シートを適用し、反対側は通気口とした場合、試作したすべての進展抑制シートについて有意な進展抑制効果、ひいては寿命延伸効果を有することがわかった。母材ままの場合と破断寿命で比較すると、蒸留水を用いた場合で2.1~2.4倍、3%食塩水を用いた場合で4.1~5.5倍、人工海水を用いた場合で6.5~9.6倍となった。含水ジェルシートの上から流電陰極層として銅箔テープを適用して試験片と適宜導通させた場合、蒸留水を用いた場合には有意な差異が認められなかったが、3%食塩水または人工海水を用いた場合には陰極層の効果が現れ、前者で35%、後者で47%の更なる寿命延伸がそれぞれ認められた。 含水ジェル及び上記の流電陽極層を用いた、き裂内析出物のくさび効果によるき裂進展抑制方法については前年度に特許出願済みだが、今年度は更に実施例データを追加した上で請求項を整理し、国内優先権主張出願を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は、前年度に引き続き鋼平板試験片を用いたき裂進展試験を実施し、試作したき裂進展抑制シートの性能評価を行った。具体的には、市販の含水ジェルシートに蒸留水、塩水または人工海水を含浸させたものを用いて含水成分の影響をみるとともに、流電陰極層や流電陽極層の効果についても比較検討を行った。 その結果、試験片の片側にき裂進展抑制シートを適用し、反対側は通気口とした場合、試作したすべての進展抑制シートについて有意な進展抑制効果、ひいては寿命延伸効果を有することがわかった。母材ままの場合と破断寿命で比較すると、蒸留水を用いた場合で2.1~2.4倍、3%食塩水を用いた場合で4.1~5.5倍、人工海水を用いた場合で6.5~9.6倍となった。含水ジェルシートの上から流電陰極層として銅箔テープを適用して試験片と適宜導通させた場合、蒸留水を用いた場合には有意な差異が認められなかったが、3%食塩水または人工海水を用いた場合には陰極層の効果が現れ、前者で35%、後者で47%の更なる寿命延伸がそれぞれ認められた。 含水ジェルシート及び上記の流電陽極層を用いた、き裂内析出物のくさび効果によるき裂進展抑制方法については前年度に特許出願済みだが、今年度は更に実施例データを追加した上で請求項を整理し、国内優先権主張出願を行った。。 以上、種々の実験を通して貴重な研究成果が得られ、特許出願も行っており、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、これまでに使用した平板試験片(板厚5 mm)よりも厚板の試験片(板厚10mm)を用いた疲労試験を行い、き裂進展抑制シートの有効性について検証する予定である。また、流電陰極層の材質および形状の最適化や、き裂内への酸素供給を円滑に行う方法、含水ジェルシートの含水量を増やして交換回数を減じる方策等についても鋭意検討を進める予定である。 今年度は研究期間延長後の最終年度に当たるため、実験及び解析で得られたデータや知見を取りまとめ、研究発表や論文投稿を適宜行っていく所存である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度計画に「試験片取り付け治具」として数十万円を計上していたが、2022年度までに使用した平板試験片および2023年度に実施予定の厚板平板試験片は既存の油圧チャックにより取付可能であったため、相当分は2023年度まで繰り越した。また、含水ジェルシートは当初、特注品として製作を外注する予定であったが、市販品を加工することで代替が可能と判断し、製作費として計上していた予算は2023年度まで繰り越した。2023年度は、これまでの成果をまとめた論文の投稿および厚板試験片を用いたき裂進展試験を実施する予定であり、論文掲載料および追加の試験片製作費等が必要になると思われるため、繰り越した予算はそれらに適宜充当していく予定である。
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