疲労き裂の内部に腐食生成物が生じると、所謂くさび効果によってき裂進展速度が大幅に抑制される場合がある。腐食環境下におけるき裂の進展挙動は、くさび効果による抑制作用と腐食溶解等による加速作用のせめぎ合いとなるため、前者が相対的に卓越するような湿潤環境をき裂内に作り出すことができれば、き裂進展を効果的に抑制することが可能となる。そこで本研究では、湿潤環境をき裂内で局所限定的に実現する手段として高含水率の含水ジェルを用いたき裂進展抑制シートを試作し、その有効性について検証を行った。 2023年度は、前年度よりも板厚を増した鋼平板試験片(t=10 mm)を用いたき裂進展試験を実施し、き裂進展抑制シートの性能評価を行った。具体的には、市販の含水ジェルシートに人工海水を含浸させたものを用い、銅箔テープの流電陰極層及びマグネットシートの乾燥防止膜を設けて疲労試験を行った。その結果、母材ままの場合に対して5.55倍の寿命延伸効果が得られ、より厚板の試験片においても一定の効果が得られることが示された。 また2023年度は研究期間延長後の最終年度ということで、これまでに得られた知見と成果を論文にまとめて溶接学会論文集に投稿し、査読修正を経て掲載された。更に、溶接学会・溶接疲労強度研究委員会において、上記論文の内容に即した講演を行った。
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