本研究では,河川橋脚基礎が沈下・傾斜の被害を受ける中規模災害後の再供用に必要とされる残存支持力がどのようなメカニズムで発現するのかについて,砂地盤を模擬したアルミ棒積層体を用いた模型実験を実施した。 基礎周辺のアルミ棒を順次取り出していくことで洗掘を模擬し,洗掘規模(すなわち土砂流出量)の増大に応じて,死荷重作用時の残留沈下・残留傾斜は増加する傾向が確認でき,洗掘深さが基礎幅の30%程度以下であれば,死荷重のみでは倒壊に至らないことを確認した。そして,この状態から,応急復旧を想定した条件(ジャッキ位置を残留変形後の桁中心位置ではなく,被災前の桁中心位置とする)で鉛直に載荷すると,その極限支持力(すなわち残存支持力)は,洗掘規模にはさほど依存せず,被災直後の残留傾斜が10度を超える場合でも,残存支持力はほとんど低下しないことを実験的に確認した。また,地盤の変位状況の観察結果より,このような挙動を示すメカニズムは,被災直後に死荷重によって沈下・傾斜が生じた場合でも,基礎直下地盤の破壊領域は限定的であり,残留沈下・傾斜の発生によってある程度安定した状態になったためと考えられる。このほか,基礎の極限支持力の評価に有効とされる解析手法の一つである,剛塑性有限要素法を用いて,模型実験の再現解析を実施した。定性的な傾向は実験と同様であることが確認されたほか,特に残留沈下・傾斜発生後の状態を初期状態とすることで,極限支持力の低下が生じにくくなる傾向が再現できたことから,観察から想定したメカニズムが妥当であることを示唆する結果が得られた。 これらの知見は,これまで被災後に経験豊富な技術者に基づく工学的な判断によって慎重に行われていた再供用可否判断について,再供用が可能であることを実証する力学的な根拠を与えるものである。再供用可能な条件が拡大し,より早期の応急復旧に貢献することが期待される。
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