研究課題/領域番号 |
20K04699
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
小笠原 敏記 岩手大学, 理工学部, 教授 (60374865)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 風波 / 気液温度勾配 / 極域 / 風洞水槽 |
研究実績の概要 |
温暖化が進行し海水温が上昇すれば、北極では海氷の融解が加速され、無氷水面の海域が増加するだけでなく、海水温度の上昇を引き起こす。その結果、大気と 海洋の境界層では鉛直温度勾配の変化が顕著となり、同風速条件においても波高が10から20パーセント大きくなると言われている。不安定成層下において波高が大きくなるメカニズムについては未解明であり、波の発達に起因する海面せん断応力を正しく評価することが求められる。しかしながら、風波のような気液境界面は、時々刻々変動するため、その境界面を客観的に判断することが難しく、その評価手法が必要である。 そこで本研究では、風洞水槽内で発生させた風波を高速度ビデオカメラで撮影し、その画像を基に自由水面を自動で検出できるシステムの構築を図る。自由水面を検出するために、セマンティックセグメンテーションを用いたDeep Learning による画像解析を行う。Deep Learningのニューラルネットワークは,畳み込み層とプーリング層を含んだU-Netモデルを適用する。セグメンテーションの出力結果は、IoU (Intersection over Union)を用いて、学習精度を検証する。 その結果、畳み込みニューラルネットワークを利用した風波気液境界面を検出するための学習モデルの構築に成功した。IoUの精度指標により、学習精度は十分であることを示した。検出した気液境界を考慮した修正画像でPIV解析を実施し、原画像を基にしたPIV解析と比較したところ、水面上の速度ベクトルをより正確に算出することが可能になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、研究活動にも制限が生じ、本研究の進捗にも多少の影響が生じた。当初の予定よりも実験の開始が遅くなってしましたが、その後は順当に実験を実施することができ、PIV解析に必要な画像を撮影することができた。その画像を基に、自由水面を自動で検出できるシステムの構築を行い、畳み込みニューラルネットワークを利用した気液境界面を検出するための学習システムを開発した。 その一方、ベーン式風速プローブによって計測された風速データおよび熱線プローブによって得られる気温・水温データを基に解析を進めたところ、水温に比べ気温が低いほど波高が大きくなり、風速3m/s程度の弱風速下において、その傾向がより顕著になることを明確にした。また、その要因が空気と水の動粘性係数に強く依存していることを明らかにした。さらに、海面抵抗係数を風速の関数として表した従来の評価式では、本実験結果で求めた海面抵抗係数を適切に表現することが困難であることを示唆し、気液温度差の条件を考慮した新たな評価式の構築を図っている。 以上より、当初の研究計画はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
地球温暖化に伴う海水温の上昇は、大気-海洋相互作用に少なからず影響を及ぼすものと考えられる。特に、北極では海氷の融解が加速され、無氷水面の海域が増加するだけでなく、更なる海水温の上昇を引き起こす。その結果、大気と海洋の境界層では顕著な気液温度差が生じ、同風速条件下においても波の発達が異なると推測される。 本研究では,極域のような温度成層の場を設定することができる風洞水槽を用いることにより、風波の発生・発達機構の解明を行い、開発する数値水槽を用いて、提案するバルク式の妥当性を検証する。そのために、今後の研究を次のように進めていく予定である。 風波の発生・発達と風速との関係を明らかにするため、正確な風速データを取得する。そこで、本科研費で購入したフォグジェネレーターによるPIV(Particle Image Velocimetry)計測および自由水面の自動検出システムを用いて、水面近傍の風速分布を取得する。これより、モニン・オブコフの相似則に従い風速の鉛直分布を求め、そこから得られる摩擦速度と代表風速との関係より、温度成層を考慮した海面抵抗係数を求める。さらに、提案したバルク式を海面せん断応力として与え、MPS法を用いた数値水槽を開発する。波高や海面表層の流速の計算値と実験値を比較し、バルク式の有用性を確認する。 その結果、現在の波浪推算に取り入れられていない外的要因である極域における不安定成層での海面抵抗係数を確度の高いバルク式として表すことができる。これによって、観測データの乏しい極域における風波の発生・発達率の精度を高めることが可能となり、地球規模における気候変動の予測精度の向上に期待が持てる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症により、学会活動がオンライン形式となり、研究成果の発表および情報交換を行うための旅費を使用することができなかった。同様に、実験補助として学生に謝金を支払う予定であったが、コロナ禍の中、学生に定期的に参加してもらうことができなかった。 このような理由により、次年度使用額が生じた。
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