本研究では、空冷システムによって空気の温度を調節し、水の温度差を任意に設定することが可能な風洞水槽を用いた実験を行い、風波の発生・発達機構と安定、不安定および中立成層のような温度成層との関係を明らかにする。さらに、極域にも適応可能な海面抵抗係数によるバルク式を海面応力として与えた粒子法による数値水槽を開発し、観測データの乏しい極域における風波の発生・発達率の予測精度を高めるバルク式の確立を目的とする。以下に主要な結論を述べる。 1)陽的MPS法を用いて静水状態の圧力の安定計算を行い、理論値よりも過大な圧力値が計算される粒子に対して、適切な重み関数で圧力値を修正することによって、良好な圧力分布を得ることが可能になった。 2)畳み込みニューラルネットワークを用いたセグメンテーションにより、適切な風波水面を検出することが可能な画像解析を構築した。検出された水面を用いて処理した画像をPIV解析した結果、水面上の風速ベクトルを従来よりも正確に取得することを可能にした。 3)水温に比べて気温が低くなるほど、波高が大きくなる傾向となることを明確にした。また、この傾向は低風速になるほど顕著になることを明らかにした。 4)波高が大きくなる原因として、低い気温になると空気の動粘性係数が小さくなるため、水の動粘性係数との差が大きくなることによって、水面の摩擦が大きくなり、風から水側に供給される運動量が大きくなることを推察した。 5)気液温度勾配と海面抵抗係数との間には正の相関があることを明らかにした。その結果、従来の風速に依存した海面抵抗係数ではなく、無次元動粘性係数で表す気液温度差を考慮した海面抵抗係数の計算式を提案した。
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