研究課題
樹冠高と河川水位の関係、植生構造と卓越風向に応じた浮遊物捕捉などに応じて、水深平均化された浅水流方程式では解析できない鉛直方向の流速分布や洪水時の抵抗変化が局所的水位や河床変動に与える影響を明らかにすることを目的として実験と数値解析を行った。樹林帯に浮遊物が捕捉された状態を大きく3種類に分類し、実樹木と捕捉物をモデル化した水理実験により抵抗特性を調べた。樹林帯前面部で浮遊物を捕捉するI型は局所的な水位上昇に影響し、内部の樹木単位で捕捉するU型のほうが樹林帯による水位上昇影響は大きかった。捕捉物の厚さを倍にした場合、抗力係数はI型の場合は1.2~2.1倍、U型の場合は1.3~1.6倍となった。これは捕捉物内を通過する際に流速が減少するため、後ろ側の抵抗が前側よりは小さくなるが、流速を捕捉物前面で評価しているためである。本実験において算出された抗力係数を用いることで、水深積分型の平面二次元の洪水流解析において河道内植生と浮遊物の捕捉による抗力の増加分を精度よく計算可能になることが期待される。一方、流木ダムやU型トラップ物の形成過程に関してはさらなる検討が必要である。次に、有限幅樹林帯が浮遊物を捕捉した場合に生じる流れの変化、特に側岸水位や洗堀に与える影響を調べた。実験はI型トラップを模擬して行った。有限幅樹林帯は流れに対する角度を変化させて実験を行った。浮遊物を捕捉しない場合はその差異は少ないものの、捕捉した場合は側岸付近、特に樹林帯斜め上流側の水位を上昇させ、かつ下流側に定在波のような三次元的な水面変動をもたらした。また、樹林帯と側岸の距離についても影響が最大になる距離が樹林帯スケールに応じて存在することが明らかになった。移動床実験においても浮遊物を捕捉した場合には、抵抗特性や二次流が変化し、局所的な水位や底面せん断力に大きな影響を与えることが確認された。
2: おおむね順調に進展している
植生構造解析では、河川水辺の国勢調査データなどをもとに、植生の鉛直構造に注目した植生分類を行った。また、洪水時において草本・木本の流失により生成される浮遊物について比重、形状、地下茎の有無などに基づき分類を行った。浮遊物の捕捉形態については、2019年の出水後に樹林帯で行った調査写真に基づき、その分類を行った。洪水時における抵抗特性の変化をより精度高く把握するため、樹林帯模型に浮遊物模型を捕捉させたときの水面形変化を調べた。各樹木における捕捉量を変化させた計測も行い、浮遊物影響の有無による植生域の抵抗特性を混在タイプ毎、水位毎に明らかにした。草本・木本モデルを水路上流から流し、草本・木本が浮遊物になった場合の拡散係数を流速勾配などの関数として求めた。また、草本・木本モデルのタイプごとに樹林帯の密度が浮遊物の捕捉率に与える影響を明らかにする実験を行い、物理的に説明可能な結果を得ている。それらを解析モデルに組み込むための特性把握までは実施できた。得られた知見をもとに、樹木や草本が流失し移動・堆積するモデルを流れに計算に組み込む部分について開発を行った。しかし、数値解析の精度はやや悪いため、移流拡散影響による誤差が小さくなる手法を開発中である。すなわち、浮遊物捕捉状況の分類と周辺流れの影響を把握し、既存の水理モデルでの適合度までは検討している。移動床実験では、植生の平面分布と鉛直構造が土砂堆積現象や河岸侵食・低水路側の土砂流送に与える影響を調べた。また、浮遊物を捕捉した場合において、樹林帯周辺の洗掘は既存の二次元モデル(二次流影響を含む)では適合度がよくないことがわかっており、流線の曲率半径の取り方などについて検討を行っている。
河川流計算において植生の鉛直構造を簡略にモデル化している場合が多いが、植生が混在した場合には、抵抗特性や二次流が変化し、局所的な水位や底面せん断力に影響を与える。二年目までの研究において、浮遊物の捕捉形態に応じて、二次流モデルで考慮されている流線の曲率半径が異なることが明らかになった。また、解析格子サイズとの関係で、樹林帯前面部で捕捉するI型トラップであれば、モデルに組み込める可能性のあることがわかっている。3年目はここを重点的に開発する。また、洪水時の卓越風向と植生構造によって漂流ゴミを捕捉しやすい樹林帯が存在し、抵抗増による局所的な水位上昇や河床変動特性が変化し、越流・破堤箇所にも影響する場合がある。風応力影響は流れのモデルに組み込み済みであるが、浮遊物を捕捉する現象のモデル化は未着手である。しかし、2年目までの研究で、様々なタイプの浮遊物をモデル化して、その拡散係数や捕捉率の知見を得ており、それを数値解析モデルに組み込む予定である。開発したモデルは2019年の出水実績を用いて検証を行う。そのために必要なデータは、浮遊物の堆積位置、堆積量を含めてデータ取得済みである。検証したモデルをもとに、河川特性(合流や狭窄部特性)に応じて、植生分布の経年的変化と洪水時の抵抗変化を考慮し、潜在的氾濫リスクを軽減するための河道維持管理技術の構築に必要な知見を得る。すなわち、1-2年目で完成した統合モデルをもとに解析を行い、植生の役割を管理という観点で分類する。分類に関して、環境面特性も考慮した上で、適切な状態に関する閾値を得る。盤下げ対策や樹木管理対策等について、河道の潜在的氾濫リスクを軽減するための河道維持管理技術を構築する。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件)
Geohazard Mitigation
巻: - ページ: 45-53
10.1007/978-981-16-6140-2_5
土木学会論文集B1(水工学) Vol.77, No.2, I_1033-I_1038, 2021.
巻: Vol.77, No.2 ページ: I_1033-I_1038
10.2208/jscejhe.77.2_I_1033