本研究では、洪水や高潮などの水災害リスクを抱える帷子川下流の沿岸都市部を対象に、さまざまな要因による水害ハザードを多角的に評価することを目的とする。そのために複合的氾濫事象を一体的に解析可能とするモデルを構築した。モデルは外水・内水の一体解析モデルと高潮モデルからなり、前者は地表面氾濫モデルを介して下水道モデルと河道モデルと結合して都市浸水解析を行う。後者は非線形長波方程式に基づき東京湾全域を対象として高潮を予測する。これらを帷子川流域に適用することで、河川洪水、内水はん濫、高潮による水災害リスクを解析した。 複合的氾濫事象の気象外力は疑似温暖化実験により作成した。既往台風を対象として、全球気候モデル出力の気象変数の偏差を適用したアンサンブルシミュレーションにより、将来気候下における台風を複数パターン作成した。 これらを外力とした高潮解析では、既往台風を対象とした再解析に基づくシナリオと比較して、潮位偏差が最大1.09m上昇するモデルが見られた。一方で同等程度の潮位偏差となる気候モデルも複数存在した。帷子川流域における降雨量については再解析に基づくアンサンブル平均の累積雨量228mmと比較して572mmまで増大するモデルもみられたが、下回るモデルも複数見られた。さらに各モデルの降水量を外力とした洪水解析では、ピーク流量のアンサンブル平均において、再解析の113.5m3/sから最大390.6 m3/sまで増加した。他方、ピーク流量は必ずしも全てのモデルで増加するわけではなかった。総じて洪水時に潮位上昇が重なる時、河川流量のみによる水位上昇よりも氾濫リスクの高まりが示唆された。 本研究課題では、将来気候下における沿岸都市部の複合水災害リスクを評価する枠組みを構築した。これを用いてリスク評価を充実化させる際、アンサンブル解析にかかる計算コストが今後の課題である。
|