本研究は、土石流規模の予測に向けて、山体内部での水貯留や流域を越える水移動を考慮した集水領域の指標化を提案するとともに、水が短時間で流出する土石流の流量ピークを推定できる解析手法を提案することを目的とした。最終年度には、土石流の水の量に着目して集水領域を検討するとともに、土石流規模に影響する要因を明らかにすることを目指した。 検討対象は、2014年、2018年に広島県内の花崗岩地質で同じ山体周辺で発生した土石流事例とした。土石流シミュレーションを用いて、渓流上に移動可能土砂として設定した実災害の土砂量の土砂残存率10%未満となる水の供給量が、実災害規模の土石流が発生するのに必要な水の量だと仮定した。全渓流で土石流が発生するのに必要な水の量を算出して合計すると、両対象とも一般的な土石流シミュレーションで想定する流域面積と降雨量を基に算出した量の2倍以上であることが示された。隣接渓流からの水移動を考慮して、両対象でQGISから全18、14渓流を含む山体の広域から抽出した面積の合計値は、必要な水から計算された面積と比較して1.0~1.1倍だった。個別の渓流の流域面積でなく、全渓流を含む山体への降雨からの水の供給量とすると、必要な水の量が対応することが示された。 両対象について情報収集のための調査や実験を行った。地形・地質的な差にも着目して、データ整理、GISによる分析、土石流シミュレーションを引き続き実施した。土石流規模を表す地形指標は、従来の二次元的な流域に加えて、流域を三次元化した山体の体積、隣接渓流を考慮した広範囲の山体を含む二次元的や三次元的な集水領域の検討を進めて、山体の体積が土石流規模を表現し得ることを示した。土石流の急なピーク流量を表現するための解析方法を検討して、前年度までの提案・適用手法について、土石流規模や挙動を表現する各種パラメータの設定方法を検討した。
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