研究課題/領域番号 |
20K04707
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
小橋 乃子 鹿児島大学, 理工学研究科, 特任助教 (00571481)
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研究分担者 |
安達 貴浩 鹿児島大学, 理工学域工学系, 教授 (50325502)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 多波長励起蛍光光度計 / アオコ / 植物プランクトン組成 / 連続モニタリング / CDOM / DOC |
研究実績の概要 |
本研究は、フィルターで分離したサイズの異なる植物プランクトン群集の光学的特徴を用いて、植物プランクトングループ組成の推定精度を向上させることを目的としている。このため、令和2年度にはダム湖を対象にフィルタリングの最適化に関する検討を行った。この結果、0.2マイクロメートル未満の分画、0.2以上5マイクロメートル未満の分画、5マイクロメートル以上の分画に区分することで、再現性のある基準スペクトルが得られ、推定精度も向上することが分かった。なお、0.2マイクロメートル未満の分画にはCDOM成分には存在しない570nmにおけるピークが見られ、藍藻類のピコ植物プランクトンの影響が含まれていることが示唆された。 また、浮草の大発生という特殊事情により2020年度には観測サイトにおいてアオコが発生しなかった。このため、過去のデータを再解析したところ、アオコ(いずれもMicrocystis spp.)の発生初期において0.2~5マイクロメートル分画の基準スペクトルにばらつきが見られることが分かった。このような結果が得られた理由として、優占する植物プランクトンが入れ替わっている可能性と、アオコが群体化する過程で光学的特徴が変化している可能性が考えられる。 さらに、ダム湖や鹿児島湾流入河川を対象にCDOMとDOCの関係を計測した。CDOMは主に難分解性有機物が、DOCには難分解性に加えて易分解性有機物が含まれることから、植物プランクトン等の影響が少ない河川や、ダム湖であっても水深5m以深であればCDOMとDOCの間には比較的良い相関が見られた。ただし、河川のCDOMにも易分解成分は含まれており、CDOMの値は季節や流量によっても変化することが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時に予定していたフィルタリングの最適化に関する検討はダム湖を対象に順調に成果が得られており、今後データを蓄積すれば良い状況になっている。更に、CDOMとDOCについても順調に成果が得られている。また、当初予定していなかった蛍光強度に及ぼす水温の影響にも新たに着目し、計測精度の向上について検討を開始している。 以上のように着実に成果が得られているものの、コロナ禍の影響で、有害赤潮が問題となる春から初夏にかけて、内湾での調査が思うように実施できなかった。このため、「概ね順調に進展している」を選択した。
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今後の研究の推進方策 |
生理状態によって若干の変化は見られるものの、同じ色素グループの植物プランクトンであれば、基本的には、励起蛍光のスペクトル形状はそこまで大きく変化しない。一方、本手法で作成する微小植物プランクトン分画およびCDOM分画の励起蛍光スペクトルは、構成種およびCDOM成分の組み合わせで決定されるため、観測毎に若干変動することが分かっている。このため,ピコプランクトンのタイプ毎の細胞数並びに、CDOM、DOC(溶存態有機炭素)を計測し、大鶴湖、鹿児島湾における各基準スペクトルの変動要因と時空間の変化の程度を明らかにする。また、栄養塩や光環境によって植物プランクトンの蛍光強度,さらにはクロロフィルaへの換算値が変化することが知られていることを踏まえて、栄養塩および光量子の調査も併せて実施する予定である。 更に、これらの結果を用いて、所定の制約条件の下、同一観測日の複数試料に対し得られた多波長励起蛍光光度計の観測結果を対象として最適基準スペクトル形状を推定するアルゴリズムを開発する。最終的に,植物プランクトンのグループ組成の推定精度を評価しながら、各水域の最適な計測手法を決定する。 ところで、鉛直方向に水温が大きく変化する外海でのCDOM調査(現場蛍光観測)では、水温補正の必要性が指摘されている(Yamashita et al. 2015)。本研究が実施する通常の調査では大きな水温変化はないものの、分析室にサンプルを持ち帰る際には冷暗保管することから、本調査においても必要に応じて温度補正を行う必要が考えられる。多波長励起蛍光光度計を用いて実施した予備調査においても、水温によって蛍光強度に変化が見られたことから、今後は多波長励起蛍光光度計の温度補正についても検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
交付申請書において、HPLC購入費の一部負担を予定していた。現在一時的にデモ機を借り、研究目的を遂行できる機器選定のための検討を行っているが、コロナ禍のため十分なサンプルが取得できず、最終的な機器の選定には至っていない。機器のスペックを確定後、購入する予定である。
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