温室効果ガスの削減策として、沿岸域における炭素貯留効果の解明が望まれている。本研究は、都市沿岸域の堆積層における炭素貯留効果を把握するため、堆積物中の炭素を形態別に分画する手法を確立し、大阪湾をモデルとして形態別炭素の空間分布特性を明らかにすることを目的とした。 2020年度は、干潟、砂浜、港湾海域および漁港の4海域で堆積物を採取し、生分解試験で分画した残存性有機炭素と熱処理分析で分画した無機炭素の合計を炭素貯留量と定義し、港湾海域や漁港の炭素貯留量が干潟や砂浜に比べて約4倍程度多いことを明らかにした。また、炭素貯留量に占める無機炭素の割合は港湾海域で約6割を占めていたのに対し漁港では3割程度と無機炭素の割合が少なく、海水面の利用形態により貯留特性が異なることを明らかにした。 2021年度は、生分解試験よりも簡便な炭素の分画手法として、燃焼分解による分画手法を確立するため、CHNコーダの燃焼温度を段階的に変化させて燃焼した炭素量を測定し、生分解性試験で定量した生分解性有機炭素量と比較した結果、燃焼分解により残存性有機炭素と生分解性有機炭素を分画することができた。また、示唆熱分析により100℃から800℃までの堆積物の発熱・吸熱反応をモニタリングすることで、提案した燃焼温度の妥当性を確認することができた。 2022年度は、簡易分析手法を用いて大阪湾全域を対象とした形態別炭素の分布状況について検討した。大阪湾の海域12地点と海岸23地点で採取した堆積物試料について分析した結果、海域は湾奥部と湾央から湾口部で生分解性の有機炭素の割合が異なることや浅海域のタイプにより形態別の炭素の組成が異なることが明らかとなった。また、干潟で炭素貯留量を分析した結果、ヨシが群落する堆積層中には多くの難分解性の炭素が貯留されている可能性が示唆された。
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