研究課題/領域番号 |
20K04717
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
加藤 浩徳 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (70272359)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 高速鉄道 / 地域イノベーション / 特許出願数 / 国際比較 |
研究実績の概要 |
本研究は,高速鉄道を対象とし,その整備が地域イノベーションに与える影響の有無とその因果効果を分析するとともに,その因果が生じるメカニズムを解明することにより,今後の我が国における新幹線整備ならびに新幹線技術の海外展開に向けて政策的示唆を得ることを目的とする. 今年度は,高速鉄道のイノベーションに与える影響をマクロに分析することを目的として,全世界の高中所得国・地域を対象に中長期的な観点から国際比較分析を行った.具体的には,100万人あたりの年間特許出願数を地域イノベーションの代表値として用い,それに高速鉄道が与える影響に関して次の3つの分析を行った.第一は,高速鉄道の導入された14か国を対象に10年間のパネルデータを使用して,高速鉄道の地域イノベーションに及ぼした影響の推定である.第二は,15か国の高速鉄道導入国と44か国の非導入国を対象として,差の差分析(Difference-indifferences analysis)を用いた平均介入効果の推定である.第三は,詳細データの得られた29か国(うち10カ国が高速鉄道導入国)を対象にマッチング手法を使用した平均介入効果の推定である.以上の分析は,いずれも高速鉄道登場後の約40年の歴史をカバーする網羅的な分析である点に特徴がある.これらの分析の結果,高速鉄道整備が短期的にも長期的にも地域イノベーションに正の外部性を持つ可能性があることが強く示唆された.特に,高速鉄道が中所得国や都市人口の増加率が高い国に与える影響は,他の国よりも大きいことが明らかとなった.これは,高速鉄道整備が政府のイノベーション政策の一部になり得ること,また高中所得国や高度に都市化の進む地域,および地域間の輸送システムが不十分な地域では,知識生産を促進する上で,高速鉄道導入による貢献が期待できることを示唆している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,高速鉄道の地域イノベーションに与える影響を多様な観点から分析することを目的としているが,今年度は,既往の関連研究を網羅的にレビューするとともに,特に高速鉄道導入によるイノベーションへのインパクトについて,マクロな国際比較分析を行った.その結果,有益な分析結果ならびに政策的示唆を得ることに成功した.この成果は,2020年6月にオンライン上で開催されたアジア開発銀行研究所(ADBI)と世界交通学会(WCTR)の共催するする国際セミナーで発表され,世界各国の研究者から注目を浴びることに成功した.特に,イノベーションは経済の中長期的な成長に寄与すると期待されることから,欧州の研究者から高い関心を集めた.またその後,成果の一部は,国際誌であるTransport Policy誌等にも掲載された.さらに,分析の一部については,2021年1月にオンラインで開催された米国交通学会(TRB)年次大会においても発表している.以上より,初年度の成果としては,当初予定通りの成果が得られたと考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は,初年度の成果をもとに我が国のデータを用いて,新幹線駅の設置や新幹線によるアクセシビリティの変化が地域イノベーションに与えた影響に関して,より詳細なインパクト分析を行う予定である.そのために,過去40年間にわたる国内の交通ネットワークデータの整備を行うとともに,我が国の特許申請データを整理する予定である.新型コロナウィルス蔓延の影響により,学内の計算機へのアクセスが困難となるなど,計算環境に一部不自由が生じているが,データの整備を順調に進められるように鋭意努力する.
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は,研究成果の発表と最新の研究動向収集のため米国等で行われる国際学会への出席を想定していた一方で,データ入力等のためアルバイトを雇用する予定であった.しかし,新型コロナウィルス蔓延のため,国際学会がオンライン開催に変更されたことから旅費の支出がなくなってしまったことに加えて,データ入力の依頼も困難となったため,支出が当初予定よりも大幅に減少した.次年度は,国際学会への参加とデータ処理等の作業依頼を予定しているため,これらに使用する計画である.
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