研究課題/領域番号 |
20K04720
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
井料 美帆 名古屋大学, 環境学研究科, 准教授 (80469858)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 横断歩行者 / 無信号横断歩道 |
研究実績の概要 |
市街地の単路部では,自動車交通量が多く隣接信号交差点があるにも関わらず,横断歩道を利用しない横断(乱横断)が発生し,安全上の問題となることがある.二段階横断施設をはじめとした無信号横断施設の設置検討を効率的に行うためには,既存信号交差点の影響を踏まえたうえで,乱横断が発生しやすい条件を整理する必要がある.本研究は,市街地の幹線道路区間において,隣接する信号交差点との相互の影響や,歩行者の乱横断の選択行動を踏まえ,安全性と円滑性を両立する単路部横断施設の設置位置や施設形式を提案することを目的とする. 2021年度は,まず信号交差点のある駅前道路を対象にビデオ観測調査を行い,歩行者の移動経路と横断位置・横断時刻選択行動要因を分析した.その結果,歩行者の経路は,駅前道路到着時の信号交差点の信号表示や車群到着状況に応じて変わる傾向が見られた.また,信号交差点から遠い位置で横断する人の一部は,遅れを小さくするように横断位置を変更していることが分かった. さらに,現地観測調査の交通環境を模擬した,種類の異なる無信号横断施設を付加したバーチャルリアリティ(VR)環境を構築し,歩行経路選択行動の調査実験を通じて,無信号横断施設の設置位置や種類が個々の歩行者の横断位置選択に及ぼす影響要因を分析した.ロジットモデルによる分析の結果,無信号横断施設の中でも,横断歩道の路面標示がある施設の方が交通島のみのものに比べ選択されやすいことが示された.さらに,地図上での乱横断経路選択割合に比べると,VRの交通状況下で選択した乱横断の割合が高いこと,歩行者に近い側の車線に到着する車両の存在の有無によって乱横断行動が選択されることが示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初はバーチャルリアリティ(VR)実験の実施のみを想定していたが,現地調査と組み合わせて分析を行うことにより,VR実験での選択行動の妥当性も含めて検証を行うことができた.横断施設の位置や種類が横断行動に影響を及ぼすことを実証できており,当初計画の目的は達成できているといえる. その一方で,分析対象地が一か所であり,出発地・目的地が固定されているなど,限定的な内容にとどまっていることも課題である.追加的な実験・調査により,得られた知見の精査を行うことが必要と考えている. これらを総合的に判断し,おおむね順調に進展していると判断する.
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今後の研究の推進方策 |
横断位置選択行動について,交通条件や出発・目的地の異なる場合の追加調査分析を行い,必要に応じてモデルの改良を行う. 得られた横断位置選択行動の知見を交通シミュレーションに実装する.交通量や横断施設の種類・配置の異なるシナリオにて,交通シミュレーション上で自動車・歩行者の遅れ時間や乱横断頻度を求める.この結果を踏まえ,円滑性と安全性の両面から望ましい横断施設配置について整理する.
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次年度使用額が生じた理由 |
VRシナリオ開発について,別途研究プロジェクトで開発した機能との共通点が多いことがわかり,設定方法を流用することができたため,開発補助者の人件費が不要となった.現地観測調査も,対象区間全体をビデオ観測可能な会議室を無償で借りることができ,調査費用がほぼ不要であった. また,海外共同研究者との打ち合わせについて,コロナ禍で海外渡航が困難であるとともに,オンラインでのミーティング環境が充実したことで,旅費が発生しなかった.これらの理由から予算の残額が生じた. 次年度は,VRソフトウェアのサブスクリプション費用と,追加調査にかかる費用(高所撮影カメラのレンタル・設置費,人件費等)を計上する.また,交通シミュレーションの実施にあたり,経路選択行動の実装やシミュレーション計算のための人件費が必要である.さらに,この1,2年で,バーチャルリアリティを用いた歩行者交通行動分析に関する海外研究事例が急速に増えていることから,国際学会(米国Transportation Research Board)における研究発表・情報交換のための旅費・参加費を計画している.その他,調査分析にかかる消耗品の購入に充てる予定である.
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