本研究は,市街地の幹線道路区間において,隣接する信号交差点との相互の影響や,歩行者の横断歩道外横断(乱横断)の選択行動を踏まえた,安全性と円滑性を両立する単路部横断施設の設置位置や施設形式の提案が目的である. 過年度には,交差点間隔が短い市街地で無信号横断施設を新たに設置することによる交通への影響について,交通流理論をもとに分析し,信号交差点の交通容量低下を招かない単路部横断施設の設置範囲などを導出した.また単路部における歩行者と車両の交錯安全性評価のためのシミュレーションモデルを構築した.さらに,ビデオ観測調査とバーチャルリアリティ(VR)歩行実験を組み合わせることで,歩行者の横断位置や横断タイミングの選択行動を分析した.無信号横断施設の中でも,横断歩道の路面標示がある施設の方が交通島のみのものに比べ選択されやすいことが示された. 最終年度には,VR歩行実験を踏まえて交通島の有無や交通条件に応じた横断時の安全性評価を行った.交通島がないときには,往復二車線の遠い方の車線(Farside)の車両との安全余裕を十分に見込まず横断開始すること,接近する車両の速度や減速方法によって横断開始のタイミングが異なり,それが安全性指標に直結することが示された.また,過年度に構築したシミュレーションモデルの歩行挙動をVR実験の結果と比較検証したところ,シミュレーションは実際の挙動に比べて大きくリスクを取る傾向が見られた.これは,シミュレーションでは車両の譲り挙動を過大に信頼する仮定を置いていたためで,VRの実験データから得られた行動モデルをシミュレーションに反映させることで,より実態に近しいシミュレーションモデルを構築した. これらの円滑性・安全性評価と乱横断選択行動分析の結果を踏まえ,横断施設の設置において考慮すべき事項を整理した.
|