研究実績の概要 |
令和2年度の研究計画では、1)ヤマトシジミの開閉運動の評価手法の構築、2)自然環境要因の変動下におけるヤマトシジミの環境ストレス応答の評価の実施を予定していた。 1)については、ヤマトシジミに磁石とホール素子センサを付けて開閉運動を連続測定し、その評価方法を検討した。磁石とホール素子センサの距離と電圧の関係式を個体ごとに準備することにより、開殻距離を求めることができた。ヤマトシジミを都市下水(5倍希釈)に曝露したところ、開殻距離や開殻率には変化は見られなかったが(p>0.05)、開殻頻度は上昇し(p<0.05)、一回あたりの開殻時間は低下した(p<0.05)。つまり、実験期間中に開殻していた合計時間には変化はないが、一回ごとの開殻の時間は短くなり、開殻の回数は多くなることがわかった。ヤマトシジミの環境ストレスを評価するうえで、開閉運動は有用であり、開殻頻度や一回あたりの開殻時間は有効な指標となることが見出された。 2)については、水温T(20, 25℃)、塩分S(5, 20psu), 飼料環境F(0.5, 2.0mgSS/ind/d)として、T, S, F, T×S, T×F, S×F, T×S×Fの各条件にヤマトシジミを曝露し、スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)、カタラーゼ(CAT)、酸素ラジカル吸収能(ORAC)、過酸化脂質(LPO)の応答を調べた。主成分分析を行ったところ、各条件のバイオマーカーの応答はグループⅠ(20℃)、グループⅡ(20℃, 5psu)、グループⅢ(25℃, 20psu)に分類され、グループⅠからⅡではSOD, CAT, ORACが著しく減少し、グループⅡからⅢではORACとLPOの上昇が顕著であった。つまり、汽水域の水温、塩分、飼料環境はヤマトシジミの環境ストレス応答に影響を及ぼすことから、人為的な影響を評価する場合にはこれらの自然条件を考慮する必要があることが示された。
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