人間社会におけるウイルスの多様性と感染症の発生程度を把握し、ウイルス感染症を早期検出することは感染症対策を講じる上で必要かつ急務である。本申請研究では、下水試料からヒト腸管系ウイルスを網羅的に検出することで、それらウイルス感染の発生状況を明らかにすること、加えて、下水試料から検出された既知、あるいは未知ウイルスを用いて、ウイルス感染症の発生程度を示す流行指標を開発することを目的とした。 これまで実施した下水中のウイルスメタゲノム解析から高頻度・高濃度(配列数)で検出された、未知配列、および、既知ウイルスを指標の候補として、国内の下水や海外の下水・地下水試料から定量PCRにて検出した。その結果、既知のウイルスや未知配列の下水中濃度が、主な感染性胃腸炎の原因ウイルスの1つであるノロウイルスの下水中濃度に相関あるいは逆相関関係にあることが示された。これらウイルスや配列はノロウイルスよりも高濃度で検出されたため、指標としての有用性が示された。また、今後はこれらウイルスや配列のノロウイルス感染症との関係解明が期待される。 さらに、下水中ウイルスの網羅的検出手法について、非流行期時のように腸管系ウイルスが低濃度で存在する下水からの検出効率を向上するため、現行の手法改善を検討した。試料中の相対量が多い細菌由来のリボソームRNAが、ターゲットとするウイルスゲノム検出率を低下さることが考えられたため、試料中のリボソームRNAを酵素によって除去した後にメタゲノム解析を行った。結果として、リボソームRNA除去とともにターゲットとするウイルスゲノム(ssRNA)も多少除去されてしまった。試料中のターゲットゲノムの相対的な存在量が極度に少ない場合、試料中のリボソームRNAを除去しない、つまり現行の手法のほうが、メタゲノム解析においてssRNAの多様性および配列数が保たれることが示された。
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