研究課題/領域番号 |
20K04749
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
今井 剛 山口大学, 大学院創成科学研究科, 教授 (20263791)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 発電菌 / 導電性コンクリート / 硫化水素 / 下水管 / 下水道の長寿命化 |
研究実績の概要 |
現在、下水管路施設の維持管理を行う上で大きな問題となっているのが下水管内で発生する硫化水素に起因する下水管(コンクリート)の腐食である。そこで、管路施設内における硫化水素の発生を抑制する技術が強く求められている。近年では、薬剤を添加する方法や曝気を行う方法等も提案(下水道協会「下水道施設計画・設計指針と解説」)されているが、継続的な維持管理コストが必要という問題点が未解決のままである。 そこで、本研究では「発電菌」の適切な制御と「導電性を付与したコンクリート下水管」との組み合わせにより、下水管内において硫化水素の発生抑制を実現できる革新的技術を開発することを目的とする。 今年度の研究実績をまとめると以下のとおりである。 ①実験の結果、市販の導電性コンクリート(商標名:サンアース)を用いることにより水中の硫化水素を大幅に抑制できることが明らかとなった。②その抑制効果は66日間の実験期間中持続し、本手法による硫化水素の抑制効果の持続性が示された。③導電性コンクリートを用いた実験後の汚泥堆積物に元素硫黄が含まれており、硫化水素から元素硫黄への酸化反応が確認できた。すなわち、導電性コンクリート壁内に電子の伝達経路が形成され、嫌気的環境にありながらも水面近傍に存在する酸素を電子受容体として利用して硫化水素を酸化・抑制できることが明らかとなった。④硫化水素の抑制のメカニズムとして導電性コンクリート内の導電性物質(炭素粉)への硫化水素の吸着効果は多少の寄与はあるものの、それがメインではないことが示された。⑤硫化水素の抑制に大きな寄与がある硫化水素の酸化においては、近年微生物燃料電池への活用が着目されている「発電菌(電子放出菌)」による生物学的酸化が主なメカニズムと考えられた。 以上から本研究は下水道の長寿命化に向けて順調に実績をあげていると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の初年度の主たる目的である、導電性コンクリートを用いることにより水中の硫化水素を大幅に抑制できることを明らかにした。また、その抑制効果は66日間の実験期間中持続し、本手法による硫化水素の抑制効果の持続性を示した。さらに、その抑制効果は本研究で想定した導電性コンクリート壁内に電子の伝達経路を形成して嫌気的環境にありながらも水面近傍に存在する酸素を電子受容体として利用して硫化水素を元素硫黄へと酸化・抑制することで得られることを明らかにした。以上から、本研究が十分に進捗していると自己評価した。 さらに、現在すでに、硫化水素の抑制に大きな寄与がある硫化水素の酸化において中心的役割を果たすと考えている「発電菌(電子放出菌)」の遺伝子工学的手法による菌叢解析を開始しており、計画を前倒しして研究が進んでいることから、(1)を選択した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は予定通り、以下の研究項目について計画に沿って進める。 研究内容1:初年度は導電性コンクリートとして市販のもの(商標名:サンアース)を用いたが、より高い伝導性を有しコストの安い「高い導電性を有するコンクリート下水管の開発」に向けて、コンクリートに導電性物質(炭素粉や鉄粉(磁性粉)を計画)を適当量混入し、安価なコンクリートをベースとしながらも高い導電性を有するコンクリート下水管の開発を行う。 研究内容2:「発電菌による硫化水素の発生抑制条件の把握」について初年度に引き続き行う。特に、以下の研究内容3と併せて同時に進める。すなわち、導電性コンクリートを用いた硫化水素抑制実験を実施しながら経時的にコンクリート表面に発達する生物膜の採取を行い、研究内容3を並行して実施する。 研究内容3:「硫化水素を硫黄に酸化する発電菌の集積培養方法の確立」に向けて、遺伝子工学的手法(PCD-DGGE法や次世代シーケンサー)等を用いて発電菌を同定するとともに、その微生物学的性質を把握し、その集積培養方法の確立に向けて進める。 研究内容4:「実下水を用いたパイロットスケール試験(R4年度)」:最終年度に行うこの実験に向けた実施方法の検討(実下水を用いるため下水処理場との調整も開始する)を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度はコロナ禍により、計画していた一切の出張ができず(学会発表はすべてオンラインとなったため、発表自体は可能であった)旅費の支出がなかった。また謝金を予定していた学生が病気のため療養となったことから、謝金の支出がなかった。さらに、その他に計上していたコンクリートテストピースの輸送料について、H29年度から共同研究を行っている下水管製造会社の中川ヒューム管工業(株)のご好意により中川ヒューム管工業(株)が負担していただいたことから、支出がなかった。以上から残額が生じた。 次年度は、遺伝子工学的手法(PCD-DGGE法や次世代シーケンサー)等を用いて発電菌を同定する研究計画があり、これに費用を要する(初期の計画よりも高額となる見通し:コロナ禍によりPCR関係の消耗品が値上がりしていること、当初計画より高頻度で菌叢解析を実施する予定に切り替えたことによる)と想定されることから、今年度の残額をそれに充ててより充実した研究を実施する予定である。
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