研究課題/領域番号 |
20K04752
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
伊藤 紘晃 熊本大学, くまもと水循環・減災研究教育センター, 助教 (80637182)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 凝集 / 天然有機物 / 水中金属 / 鉱物粒子 |
研究実績の概要 |
令和3年度は,凝集の観察対象を天然の溶存有機物の主成分である腐植物質と鉄の凝集についての観察を行った。腐植物質にはスワニー川由来のフミン酸およびフルボ酸を用いた。溶液の組成はこれらの他に低濃度(3.7 mM)のNaとCO2化学種のみを含む条件とした。 ナノ粒子トラッキング解析および動的光散乱法による粒子解析の結果より,フミン酸,フルボ酸共に5 mg/L程度以上で凝集体の形成が認められた。濃度が高くなるに従い,フミン酸では数10から数100 nmの凝集体が成長したのに対し,フルボ酸ではそのような凝集体の形成は限定的であり,数としては少数のより大きい粒子が成長した。一方,このような粒子の存在が認められたにも関わらず,溶液中の腐植物質の大部分は10mg/Lの濃度において孔径100nmのフィルターを通過したことから,ごく一部が溶解状態から凝集状態に変化していることが示唆された。 Fe(III)の凝集については,Fe(III)濃度が高くなるにつれて,粒子径の分布範囲が大きくなることが示された。また,1粒子あたりの密度は,Fe(III)濃度が1~15μMの範囲においては変化せず,20μMになると増加した。20μMでは粒子間の干渉が起こるようになったと考えられる。 Fe(III)と腐植物質が共存する場合,腐植物質の濃度が小さい場合(0.5 mg/L)であっても鉄の凝集が大きく抑制される様子が確認された。具体的には,15μM のFe(III)と0.5~50 mg/Lの腐植物質を混合した場合,フルボ酸混合系では90%以上,フミン酸混合系では85%以上のFe(III)が粒子を形成しなくなった。フミン酸の混合系はフルボ酸の混合系と比べて高い粒子濃度が見られたことから,Fe(III)とフミン酸が結合した形で凝集体が生じていた可能性が考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では多様な構成要素を考慮した凝集を扱うことを課題としているが,凝集の濃度依存性を考慮する必要があり,1物質に対して多条件の測定を行う必要がある。これに対してナノ粒子トラッキング解析法では分析に要する時間が比較的長いため,全体的に研究の進捗に時間を要している。また,今年度の研究から,より短時間で計測が可能な動的散乱法による粒子解析は,高濃度試料でなければナノ粒子トラッキング解析法と同程度の精度が得られないことが明らかになったため,分析の速度の点からの効率化は難しくなっている。
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今後の研究の推進方策 |
ここまでの研究では,溶液の組成として対象物質以外には低濃度(3.7 mM)のNaとCO2化学種のみを含む条件において観察を行ってきた。これによって対象物質が本来的に備えている性質を把握することができた。今後は,溶液の組成を河川水や海水のような実際の組成とし(すなわち,主成分であるCaやMg,N,Cl等の点から河川水や海水を模した溶液を用い),これらの成分が凝集に与える影響を調べていく。令和2年度に観察した腐植物質とFe(III)の凝集を軸として,鉱物やこれらの他のマイナーな環境水の構成要素が関わる凝集についての観察を行っていく。 また,フィルターに凝集体を捕捉し,その化学組成を調べることで複合的な凝集体の形成の実態を把握していく。 さらに凝集に対する光照射の影響を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
光照射実験を行う際にサンプルに実際に照射される光強度スペクトルを計測する必要があることが分かり,次年度にその為の装置の購入を検討しているため,今年度の配分額を一部次年度に繰り越すことにした。
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