研究実績の概要 |
令和4年度は天然水中で大規模な凝集が生じる物質である鉄について,高塩濃度における凝集の観察を行った。溶液の組成は鉄の他にNaClを700 mMとNaHCO3を7.69 mMを含む条件とした。 ナノ粒子トラッキング解析法による粒子解析の結果により,Fe(III)濃度が200 nMから明瞭な凝集体の形成が認められた。Fe(III)のが500 nMから5 μMまで上昇するにしたがって,粒子濃度は48,000,000 particles/mLから66,000,000 particles/mLへと微増しながら,粒子径分布は90~200 nmをピークにして主に50~400 nmに分布していた状態から370 nmをピークにして主に10~650 nmに分布する状態へと変化していった。すなわち,この500 nM~5 μMと濃度領域におけるFe(III)の凝集の進行はほとんど粒子サイズの増大にのみ寄与し,粒子の濃度自体はわずかに変化するのみであることが分かった。また,令和3年度の低塩濃度における観察ではFe(III)濃度が1~15 μMにおいて類似の凝集動態が確認されたが,このこととNaClが700 mMという海水レベルの塩濃度で観察を行った令和4年度の結果を比較すると,凝集が生じるFe(III)の濃度領域が受ける塩濃度の影響は少ないと考えらえる。天然の海水中ではFe(III)が1 μMあれば速やかに大規模な沈殿が生じるが,本研究で観察したNaClとNaHCO3のみが存在する条件ではFe(III)が1 μMで合ってもほとんどのFeが溶存態の濃度領域(<400 nm)に留まることが示された。令和2年度にはCaがフミン物質やカオリナイトを架橋して安定でより大きい凝集体を形成することが示されていたが,天然の海水中ではそれと同様にCa等がFeの大規模凝集の決定的要因となっている可能性が考えられる。
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