本研究は、フッ素やヒ素の除去法として電解法を用いるが、その隔膜に分子拡散プレート(多孔板)を用いることに新規性を有する。2020年度には、多孔板の厚み、孔の径、孔の数について流動解析ソフトを用いたシミュレーションにより最適化を試み、またその結果に基づいた実験をバッチ式で実施した。 2021年度は連続式でフッ素やヒ素の除去を試みた。連続式の場合、隔膜に多孔板を用いると、陽極槽側から陰極槽側へと多孔板の孔を通じて溶液を流しながら電解が可能となる。コロナによりバングラディシュやスリランカでの実施が困難であったため、当初予定(100L/日)の5分の1のスケールで現地井戸水を模した合成井戸水を用いて実験を行ったところフッ素やヒ素は、いずれも飲料水基準を満足できる水準にまで除去できた。また、下呂温泉においては温泉源泉を用いてフッ素とヒ素との同時除去を試みた。17mg/Lのフッ素は一律排水基準の8mg/L以下に、115 ug/Lのヒ素は飲料水基準の10ug/L以下にまで処理することができた。 2022年度は隔膜に用いていた多孔板に替えて幅約0.5 mmのスリットが多数入ったスリット板を用いた。乱流拡散を抑制するという機能はそのままで、孔の閉塞が無い、作成が容易というメリットがある。このスリット板を用いて2020年度~2021年度と同様に、流動シミュレーションにより、スリット幅、本数、配置を最適化した後、合成井戸水や、下呂温泉の温泉源泉を用いてフッ素やヒ素の処理を行った。その結果、処理水質は多孔板と同様であった。多孔板に比較して、開口面積が広いため電圧は低下し、消費電力の低減ができた。
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