研究課題/領域番号 |
20K04758
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研究機関 | 東京工科大学 |
研究代表者 |
浦瀬 太郎 東京工科大学, 応用生物学部, 教授 (60272366)
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研究分担者 |
松井 徹 東京工科大学, 応用生物学部, 教授 (90372812)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | マイクロプラスチック / 下水汚泥 / ポリエステル繊維 / 下水処理 / 水田土壌 |
研究実績の概要 |
本年度は,下水汚泥を施肥された水田土壌中でのマイクロプラスチックの分析法の確立を中心に,農地でのマイクロプラスチックの分解性の検討を合わせて実施した。 水田土壌中のマイクロプラスチック分析のための試料の前処理法として,比重選別/過酸化水素処理の適用を試みた。比較的比重が重く,洗濯排水由来のポリエステルファイバーの回収率として,7割程度の回収率を得ることに成功した。 従来主流のマイクロプラスチック分析法であるラマン分光法やフーリエ赤外分光法を顕微鏡と組み合わせた方法にくらべて,熱分解/GC/MS法は,試料サイズによらない分析が可能であると見込まれることから,同法の土壌試料中のマイクロプラスチック分析への応用を検討した。PE, PSなどの材質のマイクロプラスチック分析法として同法による良好な結果を得たが,下水試料を用いた検討で,PET(つまりポリエステル繊維)の検出には不安定な面があった。試料によっては良好な熱分解が難しいことが,測定が不安定になる原因と考えられたため,測定法(加熱温度,加熱方法,加熱時間)の改善を試みている。 水田土壌中でのマイクロプラスチックの分解性について,生分解性プラスチック(ポリ乳酸)および7種類のプラスチックの分解性を調べる実験を継続している。3か月の分解率(重量減少率)はいずれも1%以下であり,長時間での分解試験を続行中である。 本研究実施の過程で,道路わき粉塵中のマイクロプラスチックの分析の際に,タイヤ片(天然ゴム,スチレンブタジエンゴム)由来のマイクロプラスチックの代替指標として,タイヤ用ゴムへの添加剤であるベンゾチアゾール類を利用できることを見いだしたため,同指標の環境分析での有効性を提示するための研究を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
水田土壌中のマイクロプラスチックの分解実験用の試料の作成を終え,3か月間の分解データをすでに取得したこと,マイクロプラスチック類の前処理,および,熱分解/GC/MSによる分析法の検討がおおむね予定通り進捗していることから,「おおむね順調に進展している」と評価した。道路わき粉塵中のマイクロプラスチックの分析法において,予定しなかった方法(代替指標としてのベンゾチアゾールの利用)が発見されたことは予想以上の成果であったが,一方で,ポリエステル繊維の分解において,試料の性状によっては,熱分解/GC/MSの適用に新たな課題が見出されたため,この点で,予定よりやや遅れがある項目もあった。この遅れを取り戻す研究を現在進めており,ポリエステル繊維の分析における問題点は,研究の今後に大きな影響を与えないと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は,マイクロプラスチックの水田土壌環境中での分解実験を継続するとともに,洗濯排水などを含む都市排水中や下水処理場でのマイクロプラスチックの挙動を調べる。また,道路粉塵に含まれるタイヤ由来マイクロプラスチックの雨天時の水環境への影響を調べる研究をおこなう。2020年度に作成したマイクロプラスチックビーズ含有土壌に加えて,マイクロプラスチック繊維含有土壌を作成し,分解実験を継続して長期のマイクロプラスチック分解性の評価おこなう。2020年度に軽微な遅れの発生したポリエステル繊維の安定的な分析条件の確立のため,熱分解を確実に行うための分解温度,分解時間,分解方法に関する検討を行うとともに,熱分解以前の前処理方法(酸処理,アルカリ処理,過酸化水素処理,あるいは,その組み合わせ)の改良を重ねる。下水試料,下水処理水試料,下水汚泥試料,雨天時道路わき排水試料,環境中の水および底泥試料,など多数の検体の分析を進めることで,環境中でのマイクロプラスチックの挙動について,これまでの,分光学と顕微鏡とを組み合わせた方法で見過ごされてきたごく微小なプラスチックを含めた環境挙動についての知見を集積する。また,これらの結果について,積極的な情報発信を学会発表,学術論文,ウェブページなどの媒体で進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は,新型コロナウイルス感染症のため,4月-5月に研究室での十分な検討をおこなうことができず,また,その後も水環境現場調査の回数が制限された。下水処理場調査を10月下旬に実施できたが,やや時期が遅かったこともあり,その分析過程で生じた問題を年度中に部分的に解決することができなかったため,物品費が一部執行されなかった。また,成果を発表する学会がオンラインで開催されたため,旅費の使用がなかった。 2021年度は,新型コロナウイルス感染症の流行の影響を,実験室での検討,水環境現場調査とも,影響をあまり受けないかたちで進めることが可能であると見込まれる。2020年度に使用しなかった研究費は,活発な調査研究,実験室での検討での消耗品費として使用する見込みである。
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