土蔵や町家などの土蔵造り建造物を研究の対象として、構造的に大きな役割を担っている大壁造り土壁の耐震性能を定量的に評価し、土蔵造り建造物の地震時挙動を明らかにすることが本研究の目的である。主たる耐震要素である大壁造り土壁については現状では構造的に不明な点が多く、特に大壁部分の土壁が地震時にどのような性能を有しているかについては明らかとなっていない。そこで大壁造り土壁や真壁の土壁を対象とした壁実験を実施することによって、耐力や剛性を定量的なデータとしてとらえ、大壁部分の土壁の構造的な役割を把握することが本研究の中で重要な部分と位置づけられる。 2022年度は研究のまとめとして、大壁造り土壁の静的加力実験データの分析を進め、実際の建物の耐震性能を推定した。壁実験では壁厚をパラメータとした土壁試験体を扱っており、壁厚と耐力の関係について分析した。その結果、壁厚が150mm程度までは壁厚が大きくなると耐力が上昇するが、壁厚が150mm以上の部分は耐力への影響が小さいことが明らかとなった。また、実験結果から作成した土壁の真壁部分及び大壁部分の各荷重変形関係にもとづき、既往の研究における大壁造り土壁実験の荷重変形関係の推定を試みた。すべての既往の研究と計算結果が一致したわけではないが、壁倍率が同程度の試験体については壁厚が異なる実験についても概ね荷重変形関係を推定することができた。この計算方法を実際の土蔵造り建造物に適用し、建物の耐力と剛性を推定した。その結果、真壁部分のみを評価した場合と比較して最大耐力は1.2倍、初期剛性は3.0倍程度に上昇することが明らかとなり、土壁の大壁部分の負担耐力を考慮することによって土蔵造り建造物の耐震性能を適切に評価することができる可能性が示唆された。
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