本研究は,自治体との協働により,想定地震動や過去の大地震に対する地域内の個々の建物の損傷レベルを推定する手法の確立を目指すとともに,地域内の建物群の特性(構造種別,建設年代,建物高さなど)を考慮した地域全体の耐震指標の提案を試みるものである。以下,本年度の研究実績について,設定した4つの研究課題ごとに示す。 「課題Ⅰ:自治体保有の建物データの可視化とそれに基づく建物群の地域特性の分析」では,検討対象地域の建物全数調査結果の整理を進め,自治体保有のデータと概ね一致することを確認した。しかし,建設年は目視による全数調査では確認するのが難しく,自治体保有データが重要となる。一方,耐震補強の有無については自治体保有データに含まれないため,目視調査による確認が必要である。 「課題Ⅱ:損傷スペクトルに基づくRC造建物群の被害想定と既往の被害想定との比較」では,対象地域の3つの公共建物や都内の建物に設置した地震計の観測記録と各建物近傍の地震観測記録を比較し,地震動の実効入力について検討した。その結果,土木学会式の適用性が高いことを確認した。 「課題Ⅲ:地震入力シナリオにおける建物群の損傷評価に基づく都市の強みと弱点の分析」では,旧耐震基準で設計されたRC造建物に対する損傷評価手法の見直しを進め,従来手法よりも建物の損傷度を高精度に推定可能となった。また,当該自治体は津波避難ビルを含めて多くの避難所を有している特長があり,地震時における避難所までの避難経路の確保も重要であることから,避難経路に面した建物の耐震性能の把握が重要であることを確認した。 「課題Ⅳ:都市の強みと弱点を反映可能な都市全体の耐震指標の提案」では,都市全体の耐震指標の算出に向けた検討の1つとして,避難経路沿いの建物に着目し,崩壊建物の道路閉塞による迂回避難距離をパラメータとした耐震補強の優先順位付け手法について検討した。
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