研究課題/領域番号 |
20K04783
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研究機関 | 武庫川女子大学 |
研究代表者 |
田川 浩之 武庫川女子大学, 建築学部, 教授 (60422531)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 2023年トルコ・シリア地震 / 2024年能登半島地震 / 層崩壊 / 1自由度モデル(SDOF) / 串団子+心棒モデル / 累積損傷 / 強度・剛性低下 / 応答スペクトル |
研究実績の概要 |
2023年度は、心棒効果の観点から、おもに以下の2項目を実施した。これらは、2024年7月の第18回世界地震工学会議(WCEE2024)等で発表する。 ①応答要求量と地震被害の相関に関する検討 2023年トルコ・シリア地震、2024年能登半島地震における地震被害と、観測地震動の応答要求量との相関について、心棒効果の観点から検討した。トルコ・シリア地震では、2023年4月中旬、地震被害調査派遣団の一員として、トルコのAdana、Kahramanmaras、Hatayの3県において、能登半島地震では、2024年4月下旬、石川県富来、穴水、珠洲市正院、輪島地区で実施した。トルコ・シリア地震ではRC造や組積造の多数の建物、能登半島地震では多数の木造家屋が、全体崩壊もしくは層崩壊した。観測地震動データに対して、1自由度モデル、串団子モデル、心棒効果を考慮した串団子+心棒モデルで時刻歴応答解析を行い、最大層間変形角などの応答要求量を求めた。なお、串団子+心棒モデルで、心棒の曲げ剛性率を零とした場合は串団子モデル、∞にした場合は1自由度モデルと等価になる。1自由度モデルの弾性応答スペクトルよりも、強度・剛性低下やスリップ現象、累積損傷を伴う弾塑性応答、多層建物では特定層への変形集中により、応答要求量が著しく増加すること、高さ方向の一体性を表す心棒の曲げ剛性率は応答要求量に大きな影響を及ぼすことを定量的に明らかにした。 ②串団子+心棒モデルの振動台実験結果による検証 2022年3月に実施した伝統構法と在来工法による2層の木造軸組構造の振動台実験結果を用いて、串団子+心棒モデルの検証を行った。実験から得られた固有周期を与えるように串団子のばね定数を設定し、大黒柱、通し柱に相当する心棒の曲げ剛性率を設定すれば、串団子+心棒モデルは、層間変形角の実験結果を、概ねよく再現できることを定量的に明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年2月6日にトルコ・シリア地震、2024年1月1日に能登半島地震が起こり、それらの地震被害調査を実施した。本研究課題において、これらは当初の計画になかったが、それらの地震において、多数の観測地震動のデータが得られているため、1自由度モデル、串団子モデル、串団子+心棒モデルを用いて時刻歴応答解析を行い、本研究のテーマである心棒効果の観点から、解析結果を実際の地震被害に照らし合わせて検討した。また、串団子+心棒モデルにより、2022年3月に本研究課題で実施した伝統構法と在来工法による木造軸組構造の振動台実験で得られた結果を、当初想定していたよりも良い精度で再現できた。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度の時刻歴応答解析により、強度・剛性低下やスリップ現象、累積損傷を伴う弾塑性挙動を起こす場合であっても、心棒の曲げ剛性率を∞にした串団子+心棒モデルは、弾塑性の1自由度モデルと殆ど同じ応答をすることが分かった。この事象を拠り所とし、心棒効果を直接的に考慮した耐震設計手法の提案を行う。具体的には、1自由度モデルによる弾性応答スペクトルから、強度・剛性低下やスリップ現象、累積損傷を考慮し、弾塑性1自由度モデルの最大変位を推定する。これは、心棒の曲げ剛性率を∞にした串団子+心棒モデルの最大層間変位に殆ど等しい。これに、実際の高さ方向に貫く柱材や連層耐震壁に相当する心棒の曲げ剛性率に応じた増加率をかけることで、多層建物の最大層間変位量を推定する手法を提案する。また、2024年能登半島地震では、2階が1階を押し潰す形で層崩壊する木造家屋が多く見られたが、P-Delta効果による崩壊と捉えることができる。特に、最下層に変形集中が起こる場合、P-Delta効果は増大する。P-Delta効果による最大層間変位量の増加についても検討する。これらを踏まえて、最大層間変形量などの応答要求量をあるクライテリア以下に収めるために必要とされる心棒の剛性や強度を定量的に明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
第18回世界地震工学会議(WCEE2024)が、2024年7月、イタリア・ミラノで開催され、2023年度に行った心棒効果に関する研究成果を発表する予定である。それに必要となる旅費、参加費などを見越し、2023年度の研究予算を2024年度に繰り越す。
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