研究課題/領域番号 |
20K04784
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研究機関 | 広島工業大学 |
研究代表者 |
貞末 和史 広島工業大学, 工学部, 教授 (20401573)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 頭付きスタッド / 柱RC梁S混合構造 / 柱梁接合部 / 合成梁 / ずれ止め / 鋼コンクリート合成構造 |
研究実績の概要 |
建築および土木構造物における鉄骨とコンクリートのシアコネクター(ずれ止め)として多用されている頭付きスタッドは、通常、鉄骨母材に対して鉛直に溶接される。鉛直スタッドでは、接合部に作用するせん断力に対して、頭付きスタッドはコンクリートからの支圧力を受けて、基部のせん断変形が卓越して抵抗するため、剛性と耐力に対して効率的ではない。一方で、頭付きスタッドを傾斜させて溶接した場合は、傾斜角度を大きくするほど、頭付きスタッドはせん断力が卓越する抵抗機構から材軸方向の引張力が卓越する抵抗機構へと変わるため、接合部に作用するせん断力に対して、頭付きスタッドが効率的に剛性と耐力に機能すると考えている。本研究では、鉄骨母材に頭付きスタッドを鉛直に溶接する在来型の頭付きスタッドに対して、頭付きスタッドを45°傾斜して溶接することで頭付きスタッド1本当たりのせん断剛性とせん断強度を増大できる新型の接合工法の実用化に取り組んでいる。 本研究では、傾斜スタッドを合理的に活用できる構造として、近年、普及が進んでいる柱を鉄筋コンクリート部材、梁を鉄骨部材とする混合構造を対象とし、適用効果の程度について明らかにした後、構造性能の評価方法を構築する。傾斜スタッドの有効性を示すには、構造実験による検証を行なうことが不可欠である。令和3年度は、令和2年度内に製作を完了させた合成梁の加力実験を行った。さらに、鉛直型および傾斜型の頭付きスタッドを柱鉄筋コンクリート梁鉄骨混合構造における柱梁接合部内に設けた試験体と合成梁に設けた試験体をそれぞれ製作し、加力実験を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一方向荷重を受ける合成梁に対する傾斜スタッドの適用効果について検証する実験では、不完全合成梁を対象として、4体の実験を行った。実験変数は、頭付きスタッドの傾斜の有無と頭付きスタッドの長さである。実験の結果、以下のことが明らかになった。 ①傾斜スタッドの合成梁は、鉛直スタッドの合成梁と比べて、降伏耐力と最大耐力が大きい。特に、降伏耐力の増大が大きく、これは、傾斜スタッドでは小さなずれ領域でのせん断剛性が大きく、ずれを生じにくいことの影響である。②傾斜スタッドのせん断耐力の増大効果を考慮した不完全合成梁の降伏耐力と終局耐力式を考案し、提案式は実験値を安全側に評価できることがわかった。降伏耐力式については、実験値をやや過小評価しているが、この理由としては,小変形時における傾斜スタッドのせん断抵抗力の増大効果を降伏耐力式で考慮できていないことの影響である。 一定圧縮力下で正負繰返し地震力を受ける柱梁接合部部分架構および合成梁付きの柱梁接合部部分架構については、5体の実験を行った。実験変数は、頭付きスタッドの有無と頭付きスタッドの傾斜の有無である。実験の結果、以下のことが明らかになった。 ①柱梁接合部内に頭付きスタッドを設けることによって架構の最大耐力は増大したが,傾斜スタッドを用いることによる効果はわずかであった。②床スラブを有していない柱梁接合部の終局耐力については,提案式を用いて妥当に評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度に取り組んだ研究によって、一方向荷重を受ける合成梁に対して、傾斜スタッドを適用することの有効性が確認され、提案した降伏耐力式と終局耐力式を用いて実験値を安全側に評価できることがわかったが、降伏耐力式については、実験値をやや過小評価している点が課題として残された。これは、傾斜スタッドでは小さなずれ領域でのせん断剛性が大きく、ずれを生じにくいことの影響であることが判明しているため、これを降伏耐力式に反映できるように評価式を改良する。小さなずれ領域でのせん断剛性が合成梁の降伏耐力におよぼす影響については、頭付きスタッドのずれ剛性をパラメータとした有限要素解析を実施し、この結果を基に定量化を行う。 一定圧縮力下で正負繰返し地震力を受ける柱梁接合部部分架構および合成梁付きの柱梁接合部部分架構については、令和3年度に実施した実験では、期待した傾斜スタッドの効果が十分に得られなかった。これは、頭付きスタッドの本数が少なかったことと、コンクリート強度が小さかったことが影響しているのではないかと推測している。傾斜スタッドを適用した場合に有効な効果が得られる適用範囲が存在すると考えている。次年度は、頭付きスタッドの本数とコンクリート強度を変数とした実験および有限要素解析を行って、地震力下において有効な効果が得られる適用条件を明らかにし、傾斜スタッドを柱梁接合部と合成梁に適用した柱鉄筋コンクリート梁鉄骨混合構造の設計法を構築する。
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