研究課題/領域番号 |
20K04787
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研究機関 | 室蘭工業大学 |
研究代表者 |
濱 幸雄 室蘭工業大学, 大学院工学研究科, 教授 (70238054)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ゾノトライト / オートクレーブ養生 / 軽量気泡コンクリート / 細孔構造 / 乾燥収縮 / 炭酸化 / 耐熱性 |
研究実績の概要 |
これまではセメントに含まれるアルミ成分がゾノトライトの生成を阻害するため,セメントを出発原料としたゾノトライトの工業的合成は不可能であるといわれていたのに対して,前水和方式でセメント中のアルミ成分の先行反応後の水熱合成によりゾノトライトを生成させ得る可能性を見出したことから,本研究では,セメントを出発原料として,耐熱性,寸法安定性,耐久性に優れたゾノトライトを工業的に水熱合成するためにその生成メカニズムを解明するとともに,最適合成条件を確立し,ゾノトライト系軽量硬化体の基礎性状を把握することを目的とし,前水和養生の有無,前水和養生の温度,時間,原材料,配合条件を多岐に変化させた試料を作製し,電子顕微鏡,X線回折,熱分析による結晶観察・分析により,ゾノトライトの生成を定性・定量的に評価するとともに,空隙構造,力学性状,寸法安定性,耐火性,耐久性に関する基礎性状を把握し,ゾノトライトの生成状態と物性との関係を明らかにすることで最適条件を確立する。 本年度は,セメントを出発原料としたゾノトライト系軽量硬化体の水熱合成条件の検討,および硬化体の性能評価を行った。その結果,前水和方式を用いることで,セメントを出発原料としたゾノトライト結晶の生成は可能であり,生成物は低結晶性 C-S-H,トバモライト結晶,ゾノトライト結晶の順に転移することを確認した。また,純粋なゾノトライト結晶を生成するための最適なオートクレーブ養生条件を見出した。 硬化体の基礎物性として,細孔構造が粗大径側にシフトし,圧縮強度はオートクレーブ養生の温度時間積が大きいほど低下すること,乾燥収縮が小さいこと,熱特性に優れること,炭酸化収縮が大きくなることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で計画していたゾノトライト系軽量硬化体の水熱合成の最適条件についてほぼ明らかにすることができた。また,建築材料として求められる圧縮強度および乾燥,炭酸化,高温環境下での寸法安定性に関わる基礎性状を把握することができた。 今年度の成果から,ゾノトライト系軽量硬化体の工業的生産と建築材料としての実用化にために解決しなければならない,いくつかの課題も明らかにすることができた。今後は,それらの課題解決とメカニズムの解明,さらには建築的な用途開発の検討を行う。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の成果から,純粋なゾノトライトの水熱合成の最適条件は明らかになったが,その工業的生産のためには既存のALCの製造設備の有効利用が必要となる。そのため,実用的な範囲でのゾノトライトとトバモライトの共存を許容した硬化体の製造,物性評価も検討項目として追加することする。 また,一般的なセメント硬化体では見られない二段階の乾燥収縮挙動のメカニズムについて細孔構造と硬化体剛性の観点からの解明を目指す。 さらに,ゾノトライト系軽量硬化体の炭酸化抵抗性は一般的なALCと同程度であるものの,耐炭酸化ALCと比べると炭酸化抵抗性は著しく劣り,炭酸化後の乾燥収縮も大きくなることから,炭酸化抵抗性能向上は実用化のために解決しなければならない必須の課題である。既存のALCではシリコーンオイルの添加により炭酸化抵抗性を向上させる技術が確立され,実用化されている。しかし,シリコーンオイルの耐熱温度が200℃程度であり,230℃の高温処理が必要なゾノトライトの製造条件ではシリコーンオイルの添加による炭酸化抵抗性の向上が技術を適用できない。そのため,シリコーンオイルに代わる炭酸化抵抗性向上技術の開発が必要である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染症の影響により旅費,謝金の支出がなかった。また,試料作成については研究協力者であるALCメーカーの住友金属鉱山シポレックス(株)に依頼し,無償で提供していただいたため費用支出がなかった。さらに,試料の分析,物性評価についても既存設備の利用で対応可能であったため,今年度の直接経費の支出は無かった。 次年度においては,作成試料のSEM分析の飛躍的効率向上のために,卓上SEMを新規導入し,組成分析用EDSを設置する予定であり,そのための導入費用としてあわせて使用する計画である。
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