研究課題/領域番号 |
20K04794
|
研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
中田 幸造 琉球大学, 工学部, 教授 (80347129)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | プレストレス / 横拘束 / 拘束コンクリート / 応急補強 / 軸耐力 / リハビリテーション / せん断破壊 |
研究実績の概要 |
本研究の最終目標は,緊張材の能動横拘束を地震被災鉄筋コンクリート(RC)柱のひび割れ閉合に応用し,簡便・迅速・安価な機動的応急補強法を確立することである。損傷RC柱のひび割れ閉合は,RC柱の外周に周回させた緊張アラミド繊維ベルト(以下,ベルト)の能動横拘束により実現される。例えば,2020年度の実験結果では,能動側圧が低い場合,せん断損傷実験後の最大残留ひび割れ幅は,能動横拘束後には半分程度まで閉合し,能動側圧が中程度の場合においては,せん断損傷実験後の最大残留ひび割れ幅は,能動横拘束後に1/3程度以下まで閉合される結果が得られている。ひび割れの閉合によって,損傷RC柱のコンクリートを再一体化し,拘束コンクリートとして修復することで鉛直荷重支持能力を回復させ,ベルトのせん断補強効果によって,損傷RC柱の曲げ破壊が実現できる。しかしながら,無損傷RC柱に比べれば曲げ強度はやや小さく,水平剛性も低い。損傷RC柱の能動横拘束によってせん断強度が増大したため,曲げ破壊したと考えられるが,能動横拘束によって損傷RC柱のせん断強度がどの程度向上したのか,無損傷の能動横拘束RC柱に比べてどの程度小さくなったのかについては明らかでない。即ち,高強度緊張材の能動横拘束がもたらすひび割れ閉合によって,拘束コンクリートとして回復した見かけのコンクリート強度が曲げの応力伝達機構,せん断力の伝達機構にどのように影響するのか未解明である。 令和2年度では,これらの課題を解決することを目的として,(1)能動側圧を実験変数とした損傷RC柱の圧縮実験,(2)主筋の付着の有無を主な実験変数とした能動横拘束損傷RC柱のせん断破壊実験,(3)能動横拘束損傷RC柱の曲げ破壊実験を実施した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以下に令和2年度の成果をまとめる。 (1)能動側圧を実験変数とした圧縮実験より,損傷RC柱に与える能動側圧が大きいと損傷RC柱の圧縮強度は大きくなったが,圧縮強度が回復するほどには剛性は回復しなかった。(2)無損傷の補強RC柱と補強損傷RC柱のせん断破壊実験より,損傷が生じるとせん断強度が低下することが分かった。補強損傷RC柱では,斜めひび割れが拡幅し易いため,トラス機構が発生したものの,見かけのコンクリート強度の低下によりせん断強度が低下したためと考えられる。(3)主筋の付着の有無を実験変数とした補強損傷RC柱のせん断破壊実験より,主筋の付着を除去した補強損傷RC柱の最大水平耐力は,主筋の付着がある補強損傷RC柱試験体より小さかった。主筋の付着を除去したことでトラス機構が発生しなかったことや,主筋の付着を除去した柱試験体の損傷レベルがやや大きかったためと考えられる。(4)能動側圧が変数である主筋の付着を除去した無損傷補強RC柱のせん断破壊実験より,能動側圧を導入した柱試験体の最大水平耐力と能動側圧がほぼゼロの柱試験体の最大水平耐力は同じであった。主筋の付着を除去した柱試験体のせん断力の伝達機構はアーチ機構のみである。従って,本結果は,無損傷のRC柱において,アーチ機構に対する能動横拘束の効果は小さいことを示していた。ただし,能動側圧がほぼゼロの柱試験体に比べて,能動側圧を導入した柱試験体の変形能力は大きかった。(5)損傷RC柱に能動横拘束を適用し,曲げ破壊した柱試験体において,圧縮実験での基準柱試験体の強度時ひずみ時の圧縮応力度を用いて計算した曲げ強度計算値は,最大水平耐力を精度良く評価した。 以上の成果から,現在の進捗状況を概ね順調と判断した。しかしながら,COVID-19の影響により研究室の全ての実験終了が遅れたため,研究成果発表のための論文投稿までには至らなかった。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果より,2021年度へ向けての課題は以下を考えている。 (1)実験結果の分析をさらに進め,2020年度柱試験体のトラス機構とアーチ機構の検証を進める。(2)能動横拘束によって損傷RC柱のひび割れを大きく閉合できることは事実だが,ひび割れを完全に閉合することは不可能である。その結果,応急補強後の水平剛性,圧縮剛性は,無損傷RC柱に比べて小さい。2021年度は,本応急補強法の機動性をできるだけ低下させないことを念頭に置きながら,能動横拘束にエポキシ樹脂補修を併用し,剛性の修復度合いや,曲げ・せん断の応力伝達機構を検証する。その他,(3)無損傷補強RC柱試験体のせん断破壊実験の追加,(4)せん断損傷実験を活用したせん断伝達機構の検証,(5)圧縮実験結果の蓄積,などが課題として挙げられる。 2021年度も注意深く柱試験体を製作し,圧縮実験,水平加力実験を慎重に遂行していきたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は,COVID-19の影響で学会が全て中止となり,旅費が全て使用できなかった。2021年度は,本応急補強法の機動性を低下させないように留意しつつ,能動横拘束損傷RC柱の剛性修復を試みるため,エポキシ樹脂補修を併用する計画である。従って,職人による樹脂補修のための費用が追加で発生することが予想される。2020年度に生じた残額は,2021年度の研究目的・計画を遂行するために,慎重に活用させて頂く予定である。また,2020年度は,COVID-19の影響で研究計画が少なからず後ろ倒しとなり,最終的に研究成果は得られたものの,2020年度の成果を発表するための論文投稿期日には間に合わせることができなかった。2021年度は,研究計画を前倒しで実施していく予定である。
|